第15話

疑問は尽きないけれど、とりあえず今は治療が先決と頭を切り替えて白紅麗は竜の体をそっと抱き上げる。そのとき、竜の爪がえぐられるようにして傷ついた腕にかすめて激痛が走る。


 声にならない声を上げて、それでも、抱き上げた竜を落とすことのないように腕に力を入れる。


 しばらくの間は痛みを我慢するために体を硬直させてなんとかやり過ごす。



「キュー……」



 突如として聞こえて来たその鳴き声に、白紅麗は驚いて思わず辺りを見回す。そして、その鳴き声が自分の腕の中から聞こえてきたと理解して下を向く。


 心配そうに自分を見上げている竜と視線が交わる。


 真紅の瞳。縦長の瞳孔。竜特有の特徴だ。


 小さな牙が生えた口を、ぱくん、ぱくんと開閉して何かを訴えようとしているその姿に、白紅麗は目を瞬かせる。



「……もしかして、謝ってくれてるの?」


「キュ、キュー……」


「…………」



 くっと首を落としたその姿を見て、白紅麗は再び目を瞬かせる。


 そして、その様子に、少しだけ心がホッとした。



「大丈夫よ、私は。それよりも、あなたの傷の治療の方が大切だわ。少し痛みがあるかもしれないけれど、我慢できる?」


「キュッ、…………キュー」


「ふふっ、じゃあ、頑張ってね」



 そう言って、白紅麗は竜の治療を始める。本当は人間が使っている傷薬が竜に効くのかという疑問があったのだが、とりあえずはできることをしようということで、白紅麗は手を進めていく。


 痛いのか、竜は尻尾をぶんぶんと振りまくっているのを見て、白紅麗はごめんね、と声をかけながらもその手を止めることはなかった。


 治療の途中で、この竜はもう逃げることはないだろうと思い、白紅麗は白い布を敷いて、その上に竜をそっとおろし、治療をしてた。


 べっしんべっしんと尻尾で痛みを訴えてくるその様子を見ながら、白紅麗はそっとその手を離す。



「終わったわ。もう大丈夫よ」


「……キュゥ……」


「ごめんね、痛かったよね。でも、我慢できたの、すごいわ。頑張ったね」


「キュウ、キュ、キュウ!」


「少しの間は安静にしていた方がいいと思うから、ここにいて。私の部屋には滅多に人など来ないから、安全よ」



 そう言って、白紅麗は竜の頭を少しだけ撫でる。指に、硬い何かが当たる。なんだろうと思って見つめていると、そこには小さな突起がぴょこんとある。


 そういえば、竜には角があったっけと思いをはせる。


 白紅麗は立ち上がると、箪笥の引き出しをごそごそと漁る。そこから薄い布を取り出して、それをもってもう一度竜のそばにしゃがみこむ。


 そして、それをふわりと竜の体にかけた。

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