第14話

何事かと思い耳をすませると、屋敷の警護をしている男たちの声が聞こえてくる。



「たしか、こっちの方に落ちて来てた気がするんだけどな……」


「いたか?」


「いや、見つからない。どこにいったんだ?」


「それにしても、幸運だよな。あの伝説の竜の子供を見つけたんだから。捕まえたら何か褒美が与えられるかもしれないな」


「けど、いないんだろ?」


「……竜じゃなかったとか? 鳥だったんじゃないか?」


「なのかなぁ……残念……」


「ほら、戻るぞ!」


「お、おう」



 男たちの会話を聞いて、白紅麗はどうしようもなく罪悪感に駆られる。


 腕の中にいる竜は、いまだに興奮して、白紅麗の腕を傷つけ続けている。すでに血が滴り落ちる程に出血して痛みの感覚も鈍くなって来ている。



「……ごめん、ね……」



 静かな声でそういった。気づけば、頬を涙が伝う。それが、ぽつりと腕の中の竜に落ちる。


 今まで興奮して暴れまわっていた竜は、ハッとしたようにして体を固める。そして、ふっと体から力をぬく。



「……ごめんね…、本当に。ごめんね……。やっぱり、私たち人間のせいだったのね……」



 竜のその小さな体についていたその傷は、明らかに野生の動物と争ったような傷ではなかったのだ。


 白紅麗は、大人しくなった竜をそっと床に下ろす。


 白紅麗の腕から解放された竜はちょこちょこと白紅麗から少しだけ離れて、振り向く。そして、目を見開いた――ように見えた。


 白紅麗はその小さな変化を見つめながら、ゆっくりと言葉を竜にかける。



「……あなたの怪我の治療を、してもいい?」



 そういえば、小さな竜は戸惑ったようにおろおろとしている。それをみて、白紅麗は先ほどのように拒絶されているわけではないと解釈し、一旦竜のそばから離れる。一応自分で作った傷薬と、暇な時間の多い白紅麗が暇つぶしに針を入れた手巾を手に、もう一度竜の元へと戻った。



「少しだけ痛いかもしれないけれど、治療した方がいた思うの。だから、あなたに触っても大丈夫?」



 白紅麗の言葉に、竜は躊躇いがちに、けれど確かにこくん、と頷いてくれた。



「……ありがとう」



 そう言って、白紅麗は竜に向かって手を伸ばす。そっとその体を触る。


 ふわふわとした体は、この竜がまだ子供だということを物語っている。


 竜は、成竜になると、硬い鱗に覆われるが、子供の時はその鱗はなく、ふわふわの柔らかな毛なのだ。だからこそ、子供の竜は成竜と共に行動をしていることが多いと、書物で見たことがあるのだが。



「……あなたは、迷子になってしまったのかしら……」



 傷だらけのその存在を見て、白紅麗は首をかしげた。

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