第13話

と、突然、部屋の外で、べしゃっ、がさっ、という音が響いてくる。


 驚いて白紅麗は顔を上げる。


 白紅麗は立ち上がって部屋の外を盗み見るように伺う。


 特に何か変わったことはない、と思おうとしたのだけれど、植木の向こう側で、なにやら白い塊がひゅっと動いたのを自覚した。


 白紅麗は首をかしげる。そして、ほんの少しの好奇心に動かされて、そちらに歩み寄っていく。衣を引きずらないように、少しだけたくし上げて植木を上からひょこりと覗き込む。



「…………」



 思わず、驚きで目を見開いた。



「…………竜……?」



 つい呟いた白紅麗の声に反応したのか、そこにいた小さな塊――竜は、まるで白紅麗を警戒するように尻尾を立てている。


 両腕で抱きかかえられそうなほどの大きさの竜を白紅麗はじっと見つめる。真っ白な体のあちらこちらには、何故か傷がついており、赤い線が何本も走っている。それを見て、白紅麗は唐突に理解する。



 ――この小さな竜を攻撃したのは、人間かもしれないということに。



 けれど、それはただ白紅麗が思っただけで本当にそうとは限らない。白紅麗は、警戒されているのも構わずに、植木の後ろにさっと回り込んで、竜のそばにしゃがみこむ。



「……こっちにおいで。その傷の手当てをしよう?」


「―――!! ――っ!」



 まるで何かを訴えるように警戒する竜を見つめ、白紅麗はそっと手を伸ばす。


 おそらく、竜の方もとっさのことだったのだろう。伸びて来た白紅麗のその病的に白い手に、その鋭い爪で攻撃したのだ。すぐに痛みを訴えてきた手を、それでも引くことをせず、白紅麗はぐっと堪えてその両手で小さな竜を抱き上げた。


 竜の方も興奮しているのか、ひたすらにバタバタと暴れている。


 白紅麗は辺りを見回して誰もいないことを確認すると、竜を両手に抱きしめたまま部屋に急いで戻る。


 その間にも、竜は暴れまわる。


 衣が裂けて、腕から血が滲み始める。


 それでも、白紅麗は竜を手放さなかった。ぎゅっと抱きしめて、部屋に駆け込む。



「大丈夫よ。ごめんね、突然……でも、大丈夫だから」



 言い聞かせるように、腕の中にいる竜にそう語りかける。しかし、竜はやはり興奮して暴れまわる。腕はすでに傷だらけになっている。


 しかし白紅麗はそれよりも竜の体の傷の方が気になっていた。


 なんとか片腕で竜を抱きしめて、空いている手で竜の体をゆっくりとなぞるように触っていく。


 柔らかなその体は、痛々しい傷が無数についている。



(……野生の鳥にやられたの? ううん、それにしては……やっぱり、この傷……)



 そんなことを思っていると、部屋の外が騒がしくなる。

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