第12話

それに、戸惑いを隠せなくて、白紅麗は視線をオロオロとさせる。


 そんな白紅麗をみて、璃はふっと微笑んだ。



「……好きですよ、白紅麗様。あなたのそばに、ずっとおります。何があっても。あなただけを思っています」



 そんな璃の言葉に、白紅麗はやっぱり困惑しか返せない。しかし、それは璃もわかっていたことだった為、ゆっくりと言葉をかける。



「白紅麗様。別に俺は、すぐにあなたに返事を求めるつもりなんてありません。あなたが混乱するだろうということも、ちゃんとわかっておりました。ですから、あなたの気持ちがきちんと整理できるまで、あなたがちゃんと気持ちを俺に伝えてもいいと思える日まで――待ちます」


「あ、あき、ら……」


「大人になって、ここから出られる日があったら、一緒に出ましょう、白紅麗様。ここのように、贅沢な暮らしはできないと思います。好きなものをあたえてあげることも少ないでしょう。それでも、俺は白紅麗様と共にいたいんです」


「で、でも……っ」


「あなたが好きだから。あなたのために、俺は行動します。それだけは、忘れないでください、白紅麗様」



 そう言って、璃は白紅麗から手を離す。


 離れたその体温に、白紅麗は寂しさを感じるけれど、それを自身で否定する。


 去っていこうとする璃の後ろ姿を見て、白紅麗は慌てて声をかける。



「あ、璃っ! 私は……っ!」



 言おうと思った。そんなふうに待ってもらっても、自分はそれに応えることができないのだと。だから、ごめんなさいと。


 言おうとしたのに、それは璃に止められる。



「白紅麗様、今じゃなくていいんです」


「で、でもっ!」


「焦らないでください。否定しないでください。あなたは、我慢しすぎだ。それ故に、肯定的な言葉を拒絶する」


「…………」


「もっと自分を大切にしてください。それができたら、あなたのその返事を聞きます。たとえそれが、俺を拒否する言葉だったとしても。それをちゃんと受け止めます」



 璃のその言葉に、白紅麗は言葉を失う。


 璃が白紅麗に求めていることが大きすぎて、白紅麗にはどうすることもできないと感じてしまう。どうすればそれから解放されるのか、分からない。


 気づけば、部屋の中には白紅麗一人だけが残っていた。璃はもういない。


 白紅麗は両手で顔を覆った。どうすればいいのか全く分からない。どうすれば、璃に伝わるのか。


 意味のないことが頭の中をぐるぐると巡ってくる。そのまま考えていたら知恵熱でも出て来てしまいそうだ。

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