第11話

璃は、ぐっと白紅麗に近づき、そしてその体をぎゅっと抱きしめた。


 白紅麗は目を瞬かせる。自分が何故、璃に抱きしめられているの母がわからない。



「……璃?」


「……絶対に、お側にいます。離れません。ですから、そんなことを言わないでください、白紅麗様」


「ありがとう、璃。でもいいのよ。これは、生まれた時から決まっていることなのだから」


「そんな運命、認めません!」


「こんな容姿で生まれてしまった私が悪いの。白雪姫のように愛らしければよかったのだけれど、しょうがないわよね」


「白紅麗様、……諦めないでください。俺が、お助けしますから……!」



 璃のその言葉を聞きながら、白紅麗はそれでも淡々と言葉を返す。



「ありがとう、璃」



 そんなことを、微塵も思っていないだろう声で、そう言われて、璃は悔しくなる。


 衝動的な行動だった。


 体を離して、白紅麗の肩を捕まえて。そして、白紅麗に向かって顔を近づける。重なった唇からは、柔らかな感触と、甘い香りが、璃の思考と鼻孔をくすぐる。


 さすがにそれに驚いた白紅麗は璃から体を離そうと身じろぎしたけれど、もともと華奢な体つきに加え、力などない白紅麗に璃を振りほどくことなどできない。


 ゆっくりと蹂躙するように唇を重ね、璃は白紅麗を味わう。


 長い時間、璃は白紅麗から離れることをせず、白紅麗の唇を奪った。ようやく離れていく璃に、白紅麗は顔を真っ赤にして璃をみつめている。



「俺が、白紅麗様のそばを離れないといった意味は、こういう意味です!」



 璃もまた、顔を赤くして少しだけ叫ぶように白紅麗にそういう。


 白紅麗はなにが起こったのかわからないという感じで璃を見る。それは、初めて璃が引き出すことのできた白紅麗の表情。今まで見てきた、無表情や、諦めた表情、貼り付けた笑みなどではなく、白紅麗が本来持っているはずだった表情。


 それを見て、璃は白紅麗に言った。



「ずっと、ずっとお慕いしておりました。白紅麗様。あなたの従者になって、最初は、たしかにみんなと同じことを思っておりました」


「……!」


「ですが、最初だけです。あなたと共に過ごす日々の中で、俺はあなたに惹かれました。あなたを大切だと思うことができたのです。あなたが、とても優しいと、俺は知ってます」


「……それは、思い違いよ、璃。私は、そんな人間では……」


「いいえ」



 璃の言葉を必死に否定しようとして、けれど、それを璃が止める。


 白紅麗の肩を掴んでいる手の力が少し強くなる。

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