第10話
そんなことを意識したことをなかった白紅麗は少しだけ驚く。
「……そんなこと、ないと思うのだけれど……」
「……ありますよ。まったく、本当に無自覚ですか」
「……璃は、私のそばにいてくれるの……?」
思わずといった感じででてきた白紅麗の言葉に、璃は少しだけ目を見開いて、そしてふっと微笑んだ。
「当たり前です。俺は、ずっと白紅麗様のそばにいますよ」
璃のその言葉に、白紅麗は目を見開く。
そんなことを言ってもらえるなんて思っていなかったのだから、白紅麗のその反応は当たり前だった。
璃は白紅麗を見つめて、そして、視線を落とす。その場にしゃがみ込んで、そして白紅麗と視線を合わせる。
「とりあえず、今は怪我の治療が先です。見せていただいても?」
「あ、うん。ごめんね……」
「なぜ白紅麗様が謝るのですか……」
「迷惑、かけてるから……」
「……思ってませんよ。いいから、見せてください」
「うん……」
そう言うと、白紅麗は衣に手をかけ始める。璃はその様子をただじっと見つめる。
と。白紅麗が今度は帯に手をかける。流石にそれには驚いて璃は白紅麗を止めに入った。
「ちょっ、待ってください、白紅麗様」
「? なに?」
「な、なぜ帯に手をかけるのですか」
「なぜって……璃が怪我を見せろって……」
「どこをやられたんですか!?」
「え、背中……」
「………………」
予想外の場所――いや、予想はできたかもしれないけれど、それ以上に予想外の行動をとった白紅麗に璃は頭を抱えたくなる。
「……白紅麗様、あなたは女性です」
「? まあ、男性ではないと思うけれど……?」
「ええ、そうです。そして、俺は男です」
「それも、知っているけらど……?」
「もっと羞恥を持ってください!」
「……そう、言われても……だれも私を見る人なんていないし……多少傷跡が残っても仕方のないことだって思っているから……。それに、私もいつまでこの屋敷にいるのかわからないもの」
白紅麗の言葉に、璃は目を見開く。
白紅麗のその認識に、驚愕を隠せなかったのだ。逆に白紅麗は璃のその反応に驚いた。
「どうしてそんなにも驚いているの……?」
「……白紅麗様こそ、なぜそんなことをおっしゃるのですか……?」
「何故って……それが、私の決まっている道だから」
「決まってるって……っ」
「璃、よく考えてみて」
白紅麗の静かな声音に、璃はぐっと言葉を飲み込む。
「この屋敷で、私を家族と認識してくれているのは妹の白雪姫だけ。兄の白蓮様も、父も、私を“妖”といっているのよ? そんな存在を、いつまでもここにいさせると思う?」
「……っ!」
「捨てられるか、もしくは権力のためにどこかに嫁ぎという綺麗な言葉で飾られた慰み者として追い出されるだけよ」
そう、淡々と語る白紅麗に、璃はぐっと拳を握りこむ。
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