第9話

その間にも、白蓮と白雪姫の言い合いは続く。



「出て行くのは兄様の方です! わたくしの邪魔をしないでください!」


「邪魔だと? 何を言っている。邪魔なのはこいつの方だ」


「なぜそんなにも姉様を迫害なさるのですか! 姉様はとてもお優しい方です!」


「……白雪姫、目を覚ませ。お前は正気ではないんだ」


「それは、兄様たちの方です。同じ家族なのに、姉様だけをなぜこれほどまでに迫害できるのか、わたくしには理解できません。兄様が部屋から出てください」



 堂々巡りになりかけている、と白紅麗は理解した。だからこそ、ゆっくりと立ち上がる。


 そして、か細い声で言った。



「申し訳ございませんでした。白蓮様、白雪姫様。失礼いたします」



 白紅麗はそういうと、さっと身を翻して部屋から出て行こうとする。


 後ろから白雪姫が叫ぶ。



「白紅麗姉様っ、行かないでください!」


「白雪姫、近づくな」


「っ! 離してくださいっ、兄様っ!」



 背後でそんな会話を聞きながら、白紅麗はすっと音を立てることなくその場から立ち去った。


 衣が落ちてしまわないように、しっかりと握りしめながら、少し急ぎ目に自室を目指す。


 やっと着いた自室に、すっと入り、しっかりと襖を閉める。そこまでしてやっと、白紅麗はその場に力なく座り込んだ。


 ずくずくと痛みを訴える体を抱きしめて、痛みをなんとか誤魔化そうとする。


 慣れているはずのその痛みでも、やはり痛いらしい。


 どれほどの時間を、このように過ごさなければならないのだろうか。誰も助けてくれないとわかっているのに、それでも助けてと手を伸ばしそうになる自分に、叱咤する。


 そんな感情を殺すように、白紅麗は自身の体を抱きしめる。息を詰めて、しばらくじっとしていると、静かに襖が開く。


 普段からここにくる人間はいないため、白紅麗はその現象にひどく驚きを隠せなかった。顔を上げれば、そこには、自身の従者となってしまった璃が立っていた。



「……白紅麗様」


「あ、璃……、どうしてここに……っぅ、!」


「……やはり。治療します。どこを殴られたのですか」


「な。なんで……」


「白雪姫様の部屋に行って、あなたが無事に帰ってきたことなどないでしょう。なぜあなたは白雪姫様を拒絶されないのですか」


「…………」



 璃の言葉を聞きながらも、白紅麗はそれでも自身が白雪姫を拒絶することなど想像ができなかった。


 無垢な感情で自分に接してくれる唯一の存在だ。それを拒絶することなど、白紅麗にはできないことなのだ。


 白紅麗のその気持ちを理解したのだろう。璃がため息をつく。



「……ごめんなさい、璃。あの……、あなたが望むのなら、私はあなたを…………」


「手放すとか言わないでくださいよ。全く、少し油断すると、あなたはすぐに俺を手放そうと考えますね」


「……」



 璃の言葉に白紅麗は沈黙する。

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