第8話

しかしそれに納得しないのもやはり白雪姫だ。首を左右に振って白紅麗の言葉を拒絶する。



「嫌です! 姉様と一緒に居たいんです!」


「白雪姫、お願いだから言うことを聞いて……」


「だって、姉様の言うことを聞いたら、わたくしは姉様と一緒に居られなくなるではないですか! そんなのは嫌です!」



 確かに白雪姫の言う通りなため否定ができない。白紅麗はできるだけ人と接触しないような過ごしているため、自らが出向くことや、尋ねることなどは滅多にない。


 それは、相手が白雪姫であっても同じことなのだ。


 今日白雪姫を迎えに行ったのは、縁談がどのようになったのかが気になったからだ。そうでなければ、白紅麗が出迎えることなどあり得ない。それは、あの時の白雪姫の反応でもうかがえることでもある。


 白雪姫は白紅麗の衣をぎゅっと握り込んで離さない。白紅麗はなだめるように白雪姫に言葉をかけるけれど、小さな子供のように首を左右に振ってどうしようもない。


 その時。



「――白雪姫、入るぞ?」



 部屋の外から男性の声が聞こえて来て、ハッとしたように白雪姫が顔を上げる。白紅麗も同じ反応をして、すぐそばにあった衣をひっつかみ、それを頭からかける。


 まるで何かから隠れるようなその様子に、白雪姫は言いたいことがあったけれど、それは遠慮なく襖を開けた人物によってできなかった。



「白雪姫、いるのなら返事をしろ」


「……勝手に入ってこられたのは、白蓮兄様ではないですか」


「いるのに返事をしない方が悪いだろう」


「する前にいつも入ってからではないですか」


「まあな。……それよりも、なぜ“妖”がここにいるんだ」



 怜悧な視線を向けられたとわかる。白紅麗はそれでも微動だにせずにその場にいた。それが気に食わなかったのだろう。足音が近づいてくる。


 白紅麗は来る衝撃に備える。そして――。



「邪魔だ。とっとと失せろ」



 がっと蹴られる。痛みに顔を眺めるけれど、声は出さない。頭から衣をかぶっているからその表情を見られることはないのだ。


 それが幸いし、それ以上は攻撃をされない。


 しかし、白紅麗ではない悲鳴が部屋の中に響く。



「兄様っ! 何をなさっているのですか!?」


「お前の部屋から邪魔者を消そうとしているだけだ。そもそも、なぜお前のようなものが白雪姫の部屋にいるんだ。穢らわしい」


「兄様っ!!」


「白雪姫、お前は優しすぎるからこうやって付け込まれるんだ。いいか、きちんと拒絶しなければこいつは延々とつきまとうぞ」


「何をおっしゃってるの!? それに、わたくしが姉様をここに呼んだのです!」


「そうやって言わされているんだろう。かわいそうに……」



 白蓮と白雪姫の会話を聞きながら、白紅麗はとりあえず痛みをなんとか和らげようとするが、動くこともできないのでそんなことはできるはずがない。

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