第7話

「白雪姫、……来るのが遅くなってしまって、ごめんなさい」


「いえ、気にしておりません。それに、わたくしも姉様をあの人たちに合わせたくありませんでしたから。ちょうど良かったです」


「……白雪姫、両親をそんな風に言うのは、良くないわ」


「姉様に対しての態度を改めていただけるのであれば、考えます」


「白雪姫……」


「それよりも、わたくし、以前が気になっていたのですが、姉様はどなたか思い人はいらっしゃらないのですか?」



 白雪姫の突然の言葉に、白紅麗は流石には驚いて目を見開いた。白雪姫はどこかわくわくとしたような表情で白紅麗を見つめる。


 それに多少の居心地の悪さを感じながら、白紅麗は答えた。



「……いないわ」


「本当に?」


「……本当よ」


「なぁんだ……姉様、いらっしゃらないんですか……」


「……ええ、期待に添えなくてごめんなさいね」


「いいえ、むしろ少し安心しました!」


「……え?」


「だって、姉様に思っている方がいらっしゃらないと言うことは、姉様はまだわたくしの姉様でいてくださるってことですもの! とても嬉しいわ!」



 本来なら楽観視できることではないことなのだが、白雪姫のその言葉に、白紅麗も少しだけ驚いた表情をして、そして小さく微笑んだ。


 白雪姫のその言葉こそが嬉しいことなのだが、白雪姫はそれをおそらく無意識にしているのだろう。その無意識の優しさが、白紅麗の心をいつでも救ってくれる。


 白紅麗の緩んだ頬を見て、白雪姫も同じように微笑んでくれる。しばらくそんな空間が続き、穏やかな気持ちになる。


 そういえばと思い、白紅麗は白雪姫に言葉を投げる。



「白雪姫、そういえば、縁談を断った理由をなんて話したの?」


「そのままです」


「…………えっと」


「ですから、そのままです」


「………………」



 あまり聞きたくないことを聞いてしまった気がした白紅麗は少しだけ遠い目をしてしまう。といことは、明日か、早ければ今日の夜中に両親に突撃される可能性がある。


 それならばここでのんびりしていられない。部屋に戻っていつも通りに過ごさなければ。


 そう思って、白紅麗は白雪姫にもう戻ると言うことを伝える。しかし、それは白雪姫柄納得してくれなかった。



「嫌です! せっかく姉様が来て下さったのに、もう帰ってしまわれるなんて! もう少し一緒にお話もしたいのに!」


「……白雪姫」


「まだ行かないでください。そうだ! いっそのこと、今日はここで一緒に眠りましょう! そうだわ、それがいいわ!」


「だ、ダメよ白雪姫!」



 白雪姫の突然の提案に、それでも白紅麗は慌てて止める。そんなことをすれば、どれほどの怒りを買ってしまうのかわからない。


 出来るだけ静かに過ごしたいと願う白紅麗は必死に否定した。

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