第6話
それを分かっているから、白紅麗はあまり大きな動きは見せない。けれど、白雪姫が白紅麗を求めてくれるのだ。
大切な、大切な、たった一人の妹。
だからこそ、出来るだけ白紅麗は白雪姫のために、白雪姫の願いを叶えようとする。たった一人だけ慕ってくれるその存在に、安心を求めているのかも知れない。けれど、それほどまでに、白紅麗にとって白雪姫の存在は大きかった。
「白紅麗様」
かけられた声にハッとして、白紅麗は顔を上げる。璃が自分を見つめていた。優しい鳶色の瞳には案じているような色が浮かんでいたけれど、白紅麗はそれに気づかないふりをして頷いた。
「行くわ」
そう言って、白紅麗は立ち上がり、そして箪笥の中から衣を一枚取り出す。
それを頭にかけるようにしてかぶり、麦穂色の髪を隠す。さらにそれを顔の方に引っ張り、顔も隠すように――正確には、その瞳を隠すようにして、準備をした。
璃は何かを言おうとしたけれど、再び口を閉ざす。
「……じゃあ、行ってくるわ。璃はここにいてね」
「いえ、俺も一緒に……」
「ダメよ。ここにいて。大丈夫、すぐに戻るわ」
「……白紅麗様、俺は」
「じゃあね、璃」
ふっと微かな微笑みを見せられて、璃は思わず黙ってしまう。それを確認して、白紅麗はその身を翻した。衣が落ちないように手で押さえて部屋から出て行く。
その後ろ姿を見送ることしか、璃にはできなかった。
◇
「……白雪姫?」
声をかければ、中で少しだけ音がする。それは次第に大きくなっていき、少しだけ乱暴に襖が開く。
それに驚きながらも、中から出て来たその人物に、白紅麗はほっとする。それは、その人物も同じだった。
「姉様!」
満面の笑みで迎えてくれた白雪姫に、白紅麗もふわっと優しく笑みを作った。
「……遅くなって、ごめんなさい。白雪姫」
「いいんです、ちゃんと来てくださったんだもの!」
「……そう、良かったわ」
「はい! あ、入ってください!」
「いえ、そこまではちょっと……」
「わたくしの部屋ですから、わたくしが招きたい方を招きます! ほら、早く早く!」
「えっ、あ、ちょっ、白雪姫……!」
ぐいぐいと背中側に回られて背中を押されて仕舞えばその通りに動くことしかできない。白紅麗は戸惑いの声をあげながら多少抵抗もしたけれど結局部屋の中まで押し入れられてしまった。
白紅麗をしっかりと中に入れた白雪姫はそのまま襖をすたん、と締め切ってしまう。
「さ、これで遠慮なく、姉様とお話しできます!」
満面の笑みで、白雪姫はそんなことを言った。白紅麗は戸惑いながらも、なんとか言葉を吐き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます