第4話

そう言って、白雪姫はやっと御者に声をかける。籠が止まる。内側から勝手に扉をあけて、白紅麗は外に躍り出た。


 麦穂色の髪が微かに舞って、風がさらにその髪をさらって行く。


 肌寒さに身震いをしながら、白紅麗はくるりと振り向く。籠の中から寂しそうに自分を見つめている妹を見つめる。


 それに、白紅麗はかすかな微笑んで、手を振る。



「じゃあ、またあとでね、白雪姫」


「……はい、白紅麗姉様……」



 寂しそうに自分を見送ってくれる白雪姫に背中を向ける。白紅麗はそのまま足を踏み出して歩き始めた。


 背後から、嫌悪の眼差しを受ける。おそらく白雪姫の籠の御者だろう。慣れたことなのであまり気にしないけれど、それでもいい気分ではないことは間違いない。


 白紅麗は、一人でとぼとぼと歩き、裏門まで来る。正門から入ると両親が癇癪を起こしてしまうので、白紅麗は正門から入れないのだ。


 曰く、妖が正門から入るなとのこと。


 それを正面から言われたのは、まだほんの三歳の幼い時。その時から、すでに味方のいないこの屋敷で、白紅麗は暮らしていたのだ。


 二つ年下の白雪姫は、この時はまだ白紅麗のことを知らないし、白紅麗も白雪姫に近づこうとは思っていなかった。


 もし姿を見て、泣かれでもしたら幼い白紅麗には耐えられなかったからだ。


 出来るだけ出会わないようにと過ごして来たはずなのに、ある日突然、白紅麗は白雪姫に見つかってしまった。


 慌てて隠れようとして逃げ出したのに、白雪姫はなぜか追いかけて来たのだ。


 幼い子供の体力などたかが知れているはずなのだが、白雪姫は白紅麗よりもよほど体力があり、結局白紅麗は体力負けして追いつかれてしまった。


 その時は、どちらかというと白紅麗のほうが怯えていた。今までであって来た人は皆、白紅麗を見れば悲鳴を上げて逃げて行く。もしくは酷い罵声を浴びせてくる。更に酷ければ手をあげられることもあったのだ。


 幼心に恐怖を埋め込まれていた白紅麗は人間不信に陥っていた。


 けれど。

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