第3話

「姉様、白雪姫は、姉様が本当に大好きかのです。ですから、ご自分に自信を持ってください」



 白雪姫の言葉に、それでも白紅麗は困ったように微笑むだけだった。


 目の前にいる妹の白雪姫と、自分では、見た目が違いすぎるのだ。


 白雪姫は、長く美しい漆黒の髪に、白い肌。ぷっくりとした赤い唇。そして、髪と同じ色の漆黒の瞳。誰が見ても、“美しい”と口を揃えて言う容姿だ。


 対して白紅麗は、白雪姫とおなじように髪は長いけれど、その髪は漆黒ではなく、麦穂色。肌は白いけれど、健康的な感じではなく、どちらかというと病人のように青白いという表現の方が合う。薄い唇。そして、一番の違いはその瞳の色だ。白紅麗は、その瞳が藤色なのだ。


 同じ姉妹のはずなのに、これほどまでに違うと、ほとんど他人にしか見えない。


 父は、生まれてきた子供に怯えて、悲鳴をあげたという。


 なにか魔の者に魅入られてしまったと怯え、そして白雪姫を身籠り、産んだ。生まれてきた白雪姫は白紅麗と違い、とても愛らしく、父からは溺愛されている。


 同じ親から生まれてきたとはとても思えないと、周りから言われ続けてきた。



「……ありがとう。白雪姫が私のそばにいてくれるから、私は平気よ」


「姉様……」


「いいのよ。みんなが言っていることは間違っていないわ。まるで、人間ではないかのようなこの瞳は、異端と言われても仕方のないことよ」


「それは、受け入れていいものではありません!」


「いえ。いいえ。いいの。……妖と言われても仕方のないことだって、私もわかっているから」


「姉様っ!!」


「白雪姫、大好きよ、あなたがいてくれたから、私は耐えられるの。あなたがいてくれたから、私は今を生きていられるのよ。だから、そんなにも怒らないで。私のために怒るのは、無駄なことなのよ」


「ですが……っ」


「……もうすぐ、屋敷に着くわね。白雪姫、ここで私を下ろして」


「なぜですか!? いやです、このまま屋敷に向かいます!」


「白雪姫、いいから、下ろして」


「…………でも……」



 渋る白雪姫をじっと見つめる。見つめられた白雪姫はうっ、と言葉に詰まる。心地悪そうに視線をふっと晒す。



「白雪姫、お願い」


「…………姉様は、ずるいです」


「知っているわ」


「…………あとで、ちゃんと私の部屋まで来てください。それを約束してください」



 出された条件に、白紅麗は戸惑う。けれど、それをしなければ白雪姫はこのまま屋敷に向かってしまうだろう。それはできれば避けたほうがいいことだ。ならば、ここで頷かないわけにはいかない。


 白紅麗は観念したように肯定した。



「……分かったわ。あとで必ずあなたのところに行く。だから」


「…………絶対ですよ?」


「ええ、約束よ」


「…………わかりました……」

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