第83話
そんな白雪を視線でおいながら、萩乃が改めて部屋の中をみ、そして白雪の言葉を噛みしめる。確かに、と納得ができるものしか置いておらず、それは、昔に宮殿に住んでいたときに養われた目で見ても、相当なものだとようやく理解できた。
萩乃はすぐさまに朱音のそばによっていき頭を下げた。
萩乃の突然の行動に驚き、朱音が目を見開いているのもお構いなしに、言葉を紡ぐ。
「先ほどは大変失礼な発言をしてしまいました。申し訳ありません」
「……なぜあたくしに謝罪をするの」
「あなた様のご趣味でしょう? ならば、あなた様を辱めたも同然ですので、あなた様に謝罪するのは必然のことかと」
「…………変な人間ね」
「ふふ、わたしはそういう人間ですので仕方がありません」
「あっそ」
ぷい、と顔を背けた彼女の髪からほんの少しのぞいている耳が、ほんのりと赤く染まっているのを見て、萩乃はこっそりと笑みを浮かべた。
「さて。六花。そろそろ私と過ごすことも考えてくれないかな?」
そう切り出した彼は、いつのまにか白雪のすぐそばに来て、その手をすくうようにとり、懇願した。にこ、と笑いかけられて、白雪は己が本来ここに来た目的を忘れていたことを思い出す。
「……も、申し訳、ありませんでした」
ダーランたちと会えたことの嬉しさに、一日目は目一杯動物たちと戯れあって過ごしてしまったし、あの場を出た時刻も昼ぐらいだった。それからすぐここに来たとはいえ、すでに昼食の時間はすぎているし、何をすればいいのか一瞬でわからなくなる。
軽く混乱してしまった白雪に気づいた“鬼さん”が助け舟を出そうとした瞬間に、それを横からかっさらわれた。
「では、あたくしと共に過ごしなさい、六花」
「えっ?」
「……朱音?」
「お兄様にふさわしいか、見極めて差し上げるわ」
「あ、いえ、その……大変申し訳ないのですが、私はおことわ……」
「六花?」
「……あ、いえ、その……」
「まだ共に過ごしてもいないのに、断られるのは少し堪えるな?」
「あ、えっと、ですが私は……」
「六花?」
「……えと……すみ、ま、せん……」
「わかってくれたならいいよ。三日間はきちんと私を見てね。って、もうあと一日と半分しかないけれど」
笑顔で白雪を黙らせて“鬼さん”は白雪の時間を改めて勝ちとったのだった。
それを見つめていた萩乃はただ頑張ってください、としかいえないのは致し方ないことである。
しかし結局、その後白雪は、朱音と共に過ごすことになったのは“鬼さん”の弱さといえば弱さだったというのは、萩乃談である。
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