第82話
「あ、あの、朱音様? 私、下ろしていただいても構わないのですが……?」
「下ろしてもよろしいですけれど、その場合、あたくしではなく、あたくし付きの女房があなたを抱えて移動するだけですわよ?」
なんで!? と声に出して聞きたかったけれど、朱音の表情は真剣で何かを誤魔化しているようには全く見えない。故に、白雪は結局黙ったまま運ばれることを受け入れるしかできなかった。
ついたのは大広間だろうか。そこでようやくすとん、と下ろしてもらい、白雪は辺りを見回した。
朱音の見た目の豪華さをそのまま部屋に反映させたかのような、豪華な部屋。調度品も全てが一眼見ただけでも職人が丹精込めて作ったものなのだとわかるほどの精緻で、緻密で、それを踏まえての豪華さを備えているものが並んでいる。
(うわぁ……すごい……)
現世では一応左京院という貴族ではあったけれど、もともとあまりきらびやかなものが好みではなかったのか、左京院の家はどちらかというと質素だった。
白雪もそうだが緋雪も父も調度品や身につけているものや小物などは、そこそこいいものを持っていたけれど、それでも地味なものを選んでいたような傾向がある。好みの問題ではあるが、自分の家族はあまりそういうものが好きではなあったのかもしれないと、どうでもいいことを考えながら、白雪は辺りを興味深げに見回していた。
と、遅れて入ってきた萩乃がその部屋の中を見て「わっ」と声を上げる。
声に反応して朱音と白雪が萩乃を見れば、い心地が悪そうにその場で固まってしまっていた。
「萩乃?」
どうしたの、と声をかければ、萩野はとても言いづらそうにそれでもはっきりと音馬にした。
「……豪華すぎて、目が痛いです……」
「…………」
「えっ」
萩乃の言葉に朱音が微かに表情をしかめたが、朱音の後ろにいた白雪にその表情を窺い知ることはできない。
それを正面から見ていた萩乃と、萩乃の後ろにいる“鬼さん”はシッカリと見たようで、萩乃は少し罰が悪そうに視線を逸らし、“鬼さん”はくすくすと笑っている。
そんな微妙な空気の中、白雪は珍しくそれを汲み取らず、言葉を発した。
「豪華だけれど、一つ一つを見れば、きちんと調和が取れた物しか置いていないわ」
「!!」
「それに、一つ一つの調度品は目を見張るほどに精緻な作りをしているし、きっとこれをここに求めた方の趣味がとてもいいのよ」
「ひ、姫様?」
「ほら、よく見てみれば、この部屋は全て赤と金で統一されて設えられているわ」
「………本当だ…」
「すごいわよね…。私にはちょっと無理だけれど、こうやって、趣味のいい方が揃えてきちんと置いてあげればこんなにも綺麗になるんだもの……」
ほぅ、とため息をつきながら白雪はてくてくと調度品に近付いてはじっとそれを眺めて次へと移動する。
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