第81話
「姫様!! またそんなことばっかり言って!!」
「萩乃!?」
「お屋敷の戻ったら、わたしが描き溜めた姫様の姿絵をじっくりと拝見していただきます!!」
なにその拷問、と思ったけれど、それ以上はなにもいうことができなくてただ口をつぐむことしかできなかったのは仕方のないことだ。
そんなことを話していると、白雪を抱き上げている“鬼さん”が笑いながら萩乃に向かって一言。
「それならば、私にもぜひ見せてくれ」
「!?」
「ええ勿論! 姫様の美しさをぜひ堪能してください!」
「萩乃、わ、私ちゃんと見るから他の人には……!」
「なにか? 姫様?」
にこーっと笑顔で白雪を封じた萩乃に、それでも他人に自分の姿絵を見られるという羞恥はどうしても受け入れられなくて、白雪は無意識に自分たちのその状況を静かに見守っている少女に目を向けてしまう。
目を向けられた少女はそれに気付いて「あたくし!?」と小さく叫んでいたが、白雪があまりにも瞳に涙を溜めて体を震えさせているからなのか、大きくため息をつき“鬼さん”の腕からひょいと白雪を取り上げた。
「いい加減になさいませ、お兄様」
「朱音……六花をこっちに返してくれ」
「お兄様のものではないでしょう。それに、こんなにも震えている女の子を男の腕に戻すなんてできると思いますの?」
「六花は私の運命の人だよ。お前の未来の姉になる可能性のある人だ」
「それはとても不確定な未来の話ですわね。…………ちょっとかわいそうですし」
こんなところに思わぬ味方がいた、と内心で歓喜してしまう白雪に、本当に哀れみの感情を覚えてしまったのは仕方のないことである。
「だいたい、女性の姿絵を見たいなどと、まるでお見合いではないですか……」
「お見合い? そういえば、その手があったね。ああ、もったいないことをしてしまった。今からでも私の姿絵を描かせて六花に送ろうかな?」
「本当に今更なことをおっしゃいますのね。遅いです。もう本人にお会いしているのですから必要ありません、ただの紙屑を相手に押し付けるのは嫌がらせです」
朱音のあまりにあけすけな言い方に、白雪はなにもいえない。確かに言っていることは間違っていないけれど、そこまではっきりと言わなくてもいいのではないだろうかとも考える。
これは、自分がただ世間知らずなだけで、そう思うのがおかしいのだろうかと思わず考えてしまったが、朱音はシッカリと白雪を抱きしめたままふいと“鬼さん”から体を反転させてそのまま歩いていく。
え、と思ったのは白雪である。
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