第79話
もう、と息をついて白雪たちはそのままダーランの元へと戻り、心配かけたことを謝罪して、ダーランがもう少し安全を確保できるところに移動しようということになったので移動を開始することとなった。
白雪たちが移動を開始している中で、一人だけ、じっと先ほど歪みができた空間を見つめる人物がいた。
「……あそこまで正確に彼女を探し当てたということは、彼女を知っている人物、か……。どうやら、己の立場を理解し始めたようだな、“皇”」
そう言って、彼は白雪たちの後を追ったのだった。
*
失敗した。そういう他になにもない。攻撃を加えられた腕をさすりながら大和は表情を歪めながら思ったことはただ一つ。
(なんなんだよ、 あの暴力女!!)
白雪を狙って開けたはずの穴は、確かに彼女のすぐ近くに空いたはずなのに手を伸ばした先に待ち受けていたのは知らない女性からの攻撃。めちゃくちゃ痛かった。なにが痛かったって、最初の攻撃が一番痛かった。
(いや、そもそも、普通女が回し蹴りなんかするか!? 鬼族の女でもあるまいに!!)
意外と失礼なことを考えながら蹲っていると、後ろから声をかけられた。
「大和さん?」
「! 鸞!」
「そんなところの蹲ってどうしたんですか?」
「あ、いや……何でもない……」
誤魔化しながら、大和は鸞を見てハッとした。
「鸞、その傷!!」
「ああ、先ほども折檻されてしまいまして。あの方は、他人を痛めつけるのがお好きなんでしょうか?」
「そんなこと、なかったのに……」
「そうなんですか? ならば、あの方は他人の痛みが分からない方なのですね」
「……」
鸞の言葉に対して、大和はなにも言えない。鸞の言っていることはなにも間違っていないのだ。
普通は他人を怒るとき、武器は使わない。それは、殴る相手に痛みを知らしめ、そして自分もその痛みを分かち合うためだ。痛いのはお互い様だということを相手に判らせる。それなのに、柚葉は武器を使って相手を痛めつける。相手だけが痛い思いをする、残酷な方法を行使し、あまつさえ彼女はそれを見て笑っているのだ。
その残酷さを思い出すたびに、大和は体が震える。疑問ばかりが浮かんでその場から動けなくなってしまう。
そんな大和を見つめながら、鸞は少しだけ考えてから大和にお願いをした。
「大和さん、ワタシと、一緒に彼の方のところに来てくれませんか?」
「え?」
「……ワタシを、助けてください」
「鸞……?」
突然のその懇願に困惑してしまった大和をじっと鸞は見つめる。大和は、肯定の言葉を口に出すことはできなかったが、なんとか頷くことができた。それにほっとしたのか、鸞の表情から安堵の感情が漏れてきたのを見て、大和は胸が痛んだことを自覚した。
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