第77話




「あはははっ! あなたって本当にどんくさいのね! また打たれたいの?」


「申し訳ありません、なにぶん、慣れないものですから…」


「そんな言い訳、通用すると思っているの? 甘いわ」


「ですが、あなた様も、以前はワタシと同じ立場だったのでしょう?」


「うるさいわね、それは前の話! 今は違うんだもの。関係ないわ」



 そう言って、柚葉は手に持っているものを振り上げ、そして鸞に向かって振り下ろした。ばしんっ、という音が響き、鸞の体に新たな傷が出来上がっていく。痛みに顔を歪めれば、それに気を良くした柚葉がにや、と笑みを浮かべる。



「痛い?」


「……」


「でも、大丈夫なんでしょう? だって、あなたたち鬼は、傷がたちまち癒えるって聞いたもの。だから、どれだけ傷つけても平気なんだものね?」



 そんなはずはないと言いたいけれど、鸞は黙っている。


 この女性を止めることは、もうできないのだ。ならば、気の済むまで好きなようにさせるしかない。


 鸞はただ、与えられる暴力をただ享受し、我慢するしかできなかった。


 部屋の扉のすぐ近くで、それをただ聞いていることしかできない大和は唇を噛んだ。


 なぜ、どうしてとそんな疑問ばかりが浮かんでは消えていく。


 如何にかして、ここに止留まらせてしまった柚葉を追い出さなければ。


 それには、彼女の元主人である彼女の存在が必要だ。如何にかして、連れてこなければ。


 そう、たとえ、人攫いと言われようとも。





 ふと、なにかを感じた気がしたんだ。


 白雪は広間から出て縁側に身を出す。ここでは自分の容姿を気にすることなく、外に出られるのがとても嬉しい。腕の中には白雪を一等気に入っている兎と栗鼠が上機嫌のまま抱きしめられている。


 白雪が立ち上がったのを見て萩乃が同じように立ち上がり白雪の少し後ろについて歩く。振り返ってゆっくりと座っていてもいいのよと声をかけたけれど、にっこりとした笑顔で姫様のお姿を視界に入れていないと落ち着きませんので、と言われれば微妙な表情で答えることしかできなっかった。



『六花?』


『どうしたの?』


「ん、なんか、呼ばれたような気がして……?」


『呼ばれたのか?』


『誰に?』


「わからないわ。気のせいかもしれないね。戻ろうか」



 そう言って、腕の中の二匹に微笑みかけて白雪は萩乃に振り返る。萩乃も白雪を見てこくりとうなずき体を少し横にずらして白雪を部屋の中に通そうとした時、その異変に気付いた。

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