第75話
「だ、だって、二人がなんか話しているし、私がこのままダーランさんの背中に乗っているのもおかしいかなと思って……」
「話しているのではなく、言い合っているのです。話し合いではなく、言い合いです!」
『そうだな。お互いの意見のぶつかり合いだ』
「……あの、別に逃げようとしているとかではないのですが……」
「目を離した隙に何処かに行っちゃうかもしれないじゃないですか!」
『そこには同意する』
あなたたちは私のことをなんだと思っているの……、と内心でしょんぼりとしながら、そのままダーランに広間に連れて行かれたのだった。
その間、動物たちが周りに寄ってきてくれて一応癒されはしたが。
白雪は、そのまま優しい人や動物たちに囲まれながら、この三日間を過ごせるのだと思っていた。
けれど、それはただの願望だと、思い知らされるのはこのすぐ後のことだった。
*
情報とはどこからどう漏れるのか、わかったものではない。それは噂話も同じことだろう。誰かが何と無く口にしたことが、違う捉え方にどんどん変わっていき、話に背ひれ尾ひれがつき、最初のなんでもない話からどんどん誇張されていくというのは、どこにでもある話なのだ。
大きくため息をつきながら、皇はこれからのことを考える。考えても仕方がないとわかっていても考えてしまうのは、今のこの現実から逃げ出したいという心理がそうさせるのだろう。
自分のすぐそばにいるのは、大和とここに残ると言ってくれた鸞のみ。
その鸞は子供の体ながらに、その玉肌に多くの傷を負っている。
その現実を見て、皇が慌てて助け出したが、気づくのがあと少しでも遅ければこの鸞もこの程度の傷ではすまなかったかもしれない。
日に日にわがままが大きくなっていく人間の少女に、二人はどうすればいいのだろうと頭を抱えていた。
「……大和。お前は、どう見えた?」
「知っている人ではないです。もう、あの人は知っている人ではありません」
「……そう、か」
わかっている。そんなことは理解している。
それなのに。
放り出すことのできない、己の情け深さに、皇はどうすればいいのかわからないのだ。
放り出せと、仲間たちは言った。そうしなければ、自分たちが蹂躙されていくからと。蹂躙され尽くしてしまえば、もう後には何も残らないと知っているのだ。それは、昔の人間が、この異界に招き入れた人ではないものたちにやっていたことなのだから。
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