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第72話

彼が開けてくれた穴から異界に入り込んだ白雪たちは、まず出た場所に驚いた。草木が生茂る場所。白雪には、ほんの少しだけ見覚えのある景色と香り。そして、白雪の存在に気付いた小さな存在たちが、ひょこんと姿を少しだけ覗かせているのを見て、自然と顔が少しだけ綻んでしまう。


 白雪はその場にしゃがみ込んで自分と目があった動物たちに手招きをした。


 しかし、その場にいる子たちはなかなか寄ってきてくれなくて、しゅんとしていると、視界に突然、真っ白いものが入り込んで、そして白雪の顔面に思い切り飛びついてきた。



『また会えたーッ!!』


「わぷっ!?」


『ちゃんとアイサツができなかったから寂しかったんだよ!』



 真っ白い存在に続いて尻尾が大きくふさふさとしたものもチョコチョコと寄ってきて、そう話しかけてくる。


 白雪は顔に引っ付いたその子を外し、そしてその二匹を見た。



「ほんの少しぶりですね。元気にしていましたか?」


『うんうん、皆んな元気だよー!』


『でも、キミが突然帰っちゃったから寂しかったよー』


「それはごめんなさい。でも こうしてあえたので、許してもらえませんか?」


『むーっ、しばらく抱きしめて撫でてくれるなら許してあげる!』


『あ、じゃあボクも!』


「ええ、もちろん」



 そう言って、白雪は兎と栗鼠を抱き上げる。指先にふわふわとした毛皮が当たって気持ちがいいのを堪能しながら、白雪はハッとして萩乃を振り返る。しかし、萩乃はとても優しい笑みを浮かべて見守っている。


 それに少しだけ恥ずかしさを覚えながら、それでもそうやって見守ってもらえることが嬉しくて、白雪は萩乃に向かってふにゃりと微笑んだ。


 その瞬間、萩乃が内心で狂喜乱舞し、紙と筆があったらぜったにそれを記録に残したのにと激しく思っていたことを白雪は知らない。



『……お前は、本当に唐突にくるのが好きだな』


「ダーランさん!」


『で、お前と共にいるその女と、鬼の男は?』


「あ、彼女は私の女房です。それで、こちらの方は、えと…………知り合いです」



 なんと説明していいのかわからなくて言葉を濁したけれど、それを見逃してくれるとほどダーランが優しいはずもなく。



『本当は?』


「う……」


『とりあえず、本当のことを言わなければ、これ以上の侵入は許さないぞ?』


「え……皆さんにも挨拶をしたいのですが……」


『なら正直に白状しろ』



 別に悪いことをしているわけではないはずなのに、何故かとても悪いことをしているように感じてしまうのはダーランの威圧のせいもあるのだろう。白雪は大人しく、彼が己の求婚者だということと、彼のことを知るために再び異界に足を踏み入れたことを白状したのだった。

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