第70話
即答されてしまい、白雪は困惑する。嫌だ、と言われても、と内心で思いながらも言葉を重ねた。
「私は本当に気にしません。自分の名が他人に知られることぐらい、なんの抵抗もありませんし…。たとえそれが見ず知らずの人であったとしても」
「だからこそ、ダメだと思うけれどね。まあ、いつかは私のお嫁さんに来てもらうわけだからきちんと名乗ってもらうけれど、今はまだその時ではないから」
「……あの、私は別にあなた様に嫁ぐとは申しておりませんが……」
「ん?」
「ですから、私はあなた様に嫁ぐと決まっているわけではありませんし、それに、私は今帝が……」
「ん?」
「……あ、あの……」
ものすごい笑顔で聞き返してくるものだから、だんだん自分の言っていることがおかしいのではないだろうかと思えてきてしまう。が、白雪の言っていることはどこも間違っていない上に、突然白雪を嫁にすると宣言している相手の方がおかしいということに、白雪は気付いているが自信がなくなってきた。
「さて、意地悪はこのくらいにしないと、姫君がとても混乱してしまうね」
わかっているのなら最初から混乱しないようにして欲しいのだが、と思ったが口には出さない。
「人の王は?」
「え?」
「六花に求婚しているという人の王さ。来ているのかい?」
「えっ、どうなのでしょう。気まぐれで来てくださっているみた――」
「呼んだか?」
しゃ、襖を勢いよく開けて入ってきたのは帝。なぜここに、と思いはしたが、その後ろに萩乃がいるのを見てどうやらちょうど二人でここに向かってきていたらしいと理解できた。
頻繁に見ている気がするけれど大丈夫なのかしら、と思ったが、そんな白雪の心配をよそに、萩乃がすたすたとそばに寄ってきて、鬼族の彼と、白雪の間に割って入ってくる。
萩乃は相手の男をキツく睨みつけているが、それは白雪からは見えないため、状況をよく理解できないが、それでも萩乃が何かに怒っているということはわかったため、萩乃の衣の袖をちょいと引っ張って意識を逸らそうと試みてみるが、全く気にされず、失敗に終わった。
「それで、鬼族がなぜここに?」
「ああ、あなたが人の王かな? はじめまして。訳あって名乗れないのが心苦しいが、ひとつだけ。私は私の花嫁を迎えにきた」
「は?」
「はぁ?」
「だから、どうか私に彼女を譲ってくれないか?」
そう言って、鬼の彼は、深く深く、頭を下げた。
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