第69話

そして、白雪のその紅の瞳が、目の前の突然現れた人物の額にいき驚く。そこには、鬼族の象徴でもある角が二本飛び出しており、さらに、交わった視線の先のその瞳は、己と同じ、紅の色だった。


 目を丸くしてその人を凝視していると、にこりと微笑まれる。



「はじめまして、“鬼姫”と言われる人の少女。私は………まあ、鬼さん、とでも呼んでくれ」


「……えっ」


「申し訳ないね。簡単に名乗ることができない立場なんだ。なかなか難しい立場でね?」


「あ、いえ、その……」


「そうだなぁ…よし、私だけ名乗らないというのは不公平だから、君も名乗ることはしなくてもいいよ。ただ、そうすると、どう呼べばいいのかわからないね?」


「あ、私は別に、名乗っても問題は……」


「いけないよ。だって私は君に名乗ることができないのに、私だけ君の名を呼ぶなんて不公平なことできないだろう?」



 いや、それはそれで別に問題ないのだけれど、と思いつつ、相手の人が気にしているのならあまり深く突っ込まないほうが良いのだろうと思い、白雪も口をつぐんだ。


 相手がしたくないと思っているのなら、無理強いはしないほうがいいだろうとかんがえ、それ以上何もいえなくなる。


 そんな白雪の態度にうんうんとうなずき、彼は、白雪に手を伸ばした。



「いい子だね、うーん、なんと呼ぼうか?」


「えっと……髪が、くしゃくしゃになってしまうのですが……」


「ん? 気にしない気にしない。ふわふわさらさらしていてとても気持ちがいいね?」


「……ありがとう、ございます?」



 頭をワシワシと撫で回されて戸惑いながらもそうとだけ言って、白雪はもぞもぞとしながら相手の出方を伺って見ている。


 しばらくその行動を起こしている相手がピタリと動きを止めてじっと白雪を見つめてきた。そして、にこりと笑った。



「決めた。君は“六花りっか。うん、我ながら良い響きだ」



 そう言いながら彼は白雪の髪をくしゃくしゃお撫で回す。とりあえず彼の好きにさせながら白雪は彼がくれた名前を口の中で転がす。



「六花……」


「うんうん。じゃあこれからはそう呼ぶね」


「あ。いえ。きちんと名乗ります。なので…」



 そう言った瞬間、相手がむすっと表情をかえる。その反応にえ、と戸惑っていると相手が自分の体の前で両手を交差させる。


 そして。



「嫌だ」

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