第63話
ふと。
本当に、なぜなのかわからないけれど、あの紅の瞳を持つ、“鬼姫”と言われていた少女の横顔が思い出される。
胸が締め付けられて、苦しくなって、それでも、その横顔を思うだけで、なぜかホッとしている自分がいることに自覚する。
わからない感情が胸中に渦巻いて、どう表現したらいいのかわからない。
深くため息をついていると、かたんと音がし、驚いてそちらを振り向けばそこには朱音が立っていた。
「……朱音、お前……」
「まあ、こうなるとはなんとなく思っていたわ」
「な……っ?」
「あなたは女を理解していないのね、皇」
「柚葉はっ、ここにくる前は貴族の姫に仕える使用人で!」
「だからこそでしょう?」
「なに…?」
「その姫様が誰なのかは知らないけれど、仕える立場から仕えられる立場に立てば、感覚が狂うのなんて簡単よ。だって、わがままを言えばいいだけなんだもの。そうすれば、周りに侍る人が自分のためになんでもやってくれる。それを続けても、止める人がなければ、肥大化し、まるで自分がこの世で一番偉いと思い込む……ほぅら、傲慢な“人間”の出来上がりよ?」
「お前……っ、わかっていなのなら、なんで…!!」
「どうしてあたくしが皇の客人のために、諫める言葉をかけなければならないのよ。嫌だわ、勘違いも甚だしい」
朱音の言葉に、皇は何も言えなくなる。
朱音は、何も間違ったことは言っていない。彼女は彼女で、こちらに干渉する義理も義務もないし、そもそも、そう言ったことを嫌がったのは皇のほうだ。
「後悔してもそういと、忠告はしましたわよ、あたくしは」
そう言って、くすくすと笑いながら朱音はその場を後にした。
その場に残された皇は、悔しさに拳を強く強く握りしめ、その背中を睨みつける。
その紅の瞳に浮かんでいるのは、間違いなく、憎悪だった。
*
朱音は、己の屋敷に戻り、深く大きくため息をこぼした。
「朱音? お帰り」
「! びっくりした、お兄様……」
「どうだった? 皇の様子は」
「どうも何も、なんだかどんどんひどくなっている気がしますわ」
「そう……そろそろ動き始めた方がいいかな…」
「え、お兄様まで動いてしまわれるのですか? あたくしは反対です」
「まあ、動くと言っても、現世の“鬼姫”にちょっと挨拶に行こうかなってぐらいだけどね?」
「お兄様まで……まあ、あの子なら許しますが」
「おや、どんな心境の変化だい?」
「……こっぴどく怒ったくせに、白々しいですわね」
朱音はむぅ、と膨れながら兄と呼びかけた人を睨みつけた。
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