第62話
「じゃあ、ゆっくりと休暇を楽しんできてください、姉様たち。お土産、楽しみに待っていますから」
にこりと微笑んで、鸞は姉様たちから距離を取る。
そして柚葉に向かって深く深く頭を下げた。
「それでは、よろしくお願いいたします、“お客様”」
「え、結局あなたなの? もー最悪……」
そう言いながら、柚葉は相手を全くみず、よろしくの言葉をかけることすらせず。鸞に背を向け窓の外を眺め始める。
その場の空気が悪くなっているのに、それすらも気にしていないのか、気付いていないのか。
その場は、険悪な雰囲気のまま、終わりを告げた。
御殿の広間に集まった使用人に向け、皇はまず、頭を下げた。
「……本当に、すまなかった。気づくのが遅れたなどという言い訳は通用しないことも、謝ってどうにかなることでもないとわかっているつもりだが、謝らせてくれ」
そう言って、鬼族の頭領は使用人に深く頭を下げる。
頭を下げている自分たちの頭領に困惑しながらも、一人が言葉を発した。
「……本当に申し訳ないと思ってくださっているのなら、あの人間をここから追い出してください」
「それは……」
「できないのですか? なぜ? あのものは、あんなにも私たちを苦しめました。そして今、私たちの大切な鸞がまるで生贄のようにあの場に残っております。――追い出してください」
あまりの強い言葉に、皇は困惑する、それでも、現世からまるで匿うようにここにいることを許可した皇としては、どうすればいいのかわからなくなったのだ。
現世に戻したとしても、柚葉にはきっと居場所がない。それを分かりきっているのに、戻すのは酷なことなのではないだろうか。この異界の野に放り出すこともできない。彼女は人間で、ここは異界。ただの人間である柚葉が生きていける場所ではないのだ。
そう説明をして、皇は結局口籠ってしまう。
そんなのはただの言い訳だ、皇にだって誇りはある。一度引き受けると言ったにもかかわらず、放り出すのは、柚葉を捨てるように切り捨てた白雪と同じになってしまうのではないだろうかと考え、その判断ができなくなってしまう。
と。
「……頭領、私たちは、その現世にいる姫様の判断が、英断だったと、そう思えてなりませんわ」
そう言って、彼女たちはその場から退室して行ってしまった。
皇は、考える。
白雪の判断が英断? なぜそんなことが言える。切り捨てた、ずっとそばにいたものを簡単に、あっさりと、なんの未練のかけらもないほどに。
それなのに。
「……なんで、英断だと言えるんだ、お前たちは……」
困惑の言葉を聞いてくれたものは、誰もいない。
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