第58話

「姫様、まだお伝えしていない、わたしのとってきの秘密を教えて差し上げましょうか?」


「……萩乃の、秘密……?」


「ええ。わたしの秘密です。でも、誰にも言ってはいけませんよ。わたしと、姫様と、…………まあ、不本意ながら、帝様も、同じなんですけど」


「俺の扱いだけ酷いな、萩乃?」


「……名前で呼ばれると、背筋に悪寒が走るのでやめてもらえませんか」



 白雪は、萩乃の言葉に少し驚いている。


 萩乃は相手が帝と言っていた。ということは、つまり……。



「……え、あ、あの、あなたは……今上帝……っ!?」


「ん? なんだ、知らなかったのか? まあ、あの父親が言うとも思えないが」


「……!? お、お断りいたします!!」


「即答ー……」


「あ、なんだろう。胸がスッとした。めちゃくちゃ気持ちいいです」


「人の不幸は蜜の味って? お前、本当に性格悪いな」


「あなたに言われるなんて、自慢できちゃいますね!」


「何も褒めてないけどな」



 萩乃! と白雪は小さな声で呼び、帝と萩乃を何度も見比べながら萩乃の袖をつかんで必死に自分のそばに引き寄せる。


 そんな白雪の行動に、萩乃はどこか嬉しそうに笑みを漏らしているが、それに気付ける白雪ではなく、気づいていたのは、自分のすぐそばにいた帝だけだ。少しあった視線の中で、萩乃は勝ち誇ったような瞳で帝を見ていた。


 うぐ、と帝が言葉に詰まったのは仕方のないことである。



「み、帝に、そんな口を聞かないで! 私はどうなってもいいけれど、この家に迷惑はかけられないの!」


「ああ。大丈夫ですよ、姫様」


「大丈夫って、そんな簡単に……!」


「だって、わたし、この人の妹ですから」


「………………………え?」


「まあ。正確には異母妹ですけど。だからこの程度のことで逆上するな小さい男のはずがありませんよ。そうでしょう、兄上様?」


「……そんな簡単に暴露してもいいのかと言われれば、否の事柄なんだが?」


「あら。ですが、わたしはもうそちらに戻る気はありませんし、それに、姫様は縛ってくれるとおっしゃってくれましたから!」


「……お前、なんで俺よりも先に……」


「もたもたしているあなたが悪いのでしょう? 悔しかったら、早くわたしと同じ土俵に立ってくださいな」



 ああ、頭が追いつかない。なんだ。何か起こっているんだろう、と白雪は必死に考えながら、それでも結局処理が追いつかない。



「あの、……萩乃?」


「はい」


「あなたは……帝の……妹様…?」


「まあ、血縁だけでいえばそうなるのかもしれませんわねぇ」


「…………」



 何を言えばいいの分からなくなった白雪だったが、次の瞬間。



「どうしてあなたのような高貴な方がこんなことをしていらっしゃるの!?」



 叫んでしまったのは、仕方のないことだと思って欲しいと、白雪は後々言い訳をしたのだった。

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