第56話
そんな白雪の行動に気づいたのか、目の前の彼が少し首を傾げて白雪に質問をする。
「何かしていたのか?」
「えっ、いえ、特には……」
「でもいま、後ろに何かを隠しただろう?」
「……手慰みにしている刺繍です。お客様がいる目の前でやることではないですし、そんなにも上手なわけではないので、お見せできるものでもないですし……」
「ふーん……まぁ、完成したのなら見せてくれ。楽しみにしている」
「……あの、私の話聞いてくださってましたか?」
「聞いてた聞いてた。完成したらでいいから。なんなら、いま無理やりにでも見せてもらうことも可能なんだが?」
そう言って、彼がじりじりと白雪との距離を詰めてきたのを自覚して、白雪は慌てて首を左右に振って拒絶した。そんな白雪の様子を見て、彼は楽しそうに笑いながら、白雪へと詰めていた距離を元に戻す。
そんな彼の態度に、白雪は戸惑いながらその紅の瞳で帝をじっと見つめてしまう。それに気づいた帝が再び首を傾げる。
「なんだ?」
「…………あなたは、」
「ん?」
「もっと、人のことを考えない強引な方なのだと思っていました」
「……………………遠慮の欠片もない言葉だな」
そう言われてはっとしたが、すでに言葉。声にしてしまったのだから遅い。
オロオロとしながら何かを言おうとしては口を閉ざす白雪を見て、彼はなんだかおかしくなってきて笑ってしまった。
突然声を出して笑った帝に、白雪の体がびくっと震えて紅の瞳を見開いて帝を凝視してしまう。
そんな白雪に、彼はなんだか胸が暖かくなる気がした。
「いや、悪い。お前が悪いとかいうわけではなく、こうして対面で直接的なことを言われるのはほとんど経験がないから新鮮でな」
「も、申し訳ありません……!」
「いや、気にするな。こんなにも楽しい気持ちになったのはとても久しぶりだ」
そう晴れやかな顔で言った帝に、白雪はなんともいえない表情を作る。
彼がひとしきり笑い、それが治るのを見計らって白雪が声をかけようとした時。
「ーー姫様、どうやら、招かれざるお方がいらっしゃるようですね?」
「!?」
突然かけられた声に、何故か白雪が体を震わせる。
襖の方に視線を向ければ、そこにはものすごい笑顔なのに笑っていない萩乃が立っていた。背中にうっすらを汗が滲んでいるのが白雪は自分でもわかるほどに、その笑顔は怖い。
しかし、そんな萩乃を前にしても、彼はとても飄々としていて、むしろ面白そうにしている。
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