第55話
(何て心地がいいのかしら……)
自らが動かなくても、何でもしてもらえる。考え、行動する必要もない。
(あたしは、今、“姫“なんだ)
だからこそ、こんな風に皆が動いてくれる。何でもやってくれる。
考える必要もない。
そうだ。次に皇や大和に会う機会がある時は今までできなかったことを思い切りやってみよう。
身をきれいにしてもらって、髪を結ってもらって、今まで着たことのないような派手な着物を着せてもらって。今までできなかった化粧というものを施してもらって。
一人では無理だが、ここには柚葉の願いを叶えてくれる人たちがたくさんいる。快く“手伝って“もらえば大丈夫だ。
だって。
(ーーーーーだって、あたしが“姫”何だもん)
狂った思考を正すものは、誰もいない。
*
ぼんやりと目が覚めていく。体を起こせばそこが自身の寝室だと理解できる。部屋の中を見回してみたが、そこに萩乃はいなかった。どのくらい眠ってしまっていたのだろうかと思い、体を布団から出して外の様子を見るために襖を開ける。
(……す、すごい寝ちゃってた…!!)
すでに日は傾きを見せ、今が夕方であると証明される。朝から今の今まで一度も起きることなく眠りこけていたとは。自分でもあまり信じたくないと思いつつ、それでも、ふと意識した途端にお腹は空いていることを自覚して。
白雪はどうしようかと悩んで、しかし自分が屋敷の中を彷徨くのは良くないということもわかっているため、部屋でじっとしていることしかできない。
仕方がないからしばらく部屋の中でじっとしていると、白雪はちょこんと部屋の真ん中に座って萩乃がくるのを待った。
あまり時間をおかずに部屋に訪ねてくれた萩乃に、空腹のことを伝えると、くすりと小さく笑ってから、急いで用意しますと言ってそのまま部屋を後にした。
萩乃がきてくれるのをのんびりと待とうと、白雪はいつも手慰みにやっているやりかけの刺繍を部屋の隅に置いてある籠の中から取り出し、それを持ったまま先ほどと同じ位置に戻り、手をつけようとした時。
「どうも、ニノ姫の求婚者です」
そう言って遠慮なく部屋に入ってきた男性に、白雪は目を丸くしたまま固まってしまった。
「や、ニノ姫。元気かい?」
「……はい」
思わず返事をしてしまってから、この状況おかしくないだろうかと思い至る。そもそも、どうしてこの人がここにいるのだろうか。
「思ったよりも普通の反応で、俺の方が少し戸惑ってしまうね」
「あ、いえ、わたしも驚いているのですが……」
「全然そんなふうに見えないけど?」
そう言われても、と思いつつ白雪は手にしていたものを相手の視界に入れないように自分の後ろに隠すようにおいてから、相手を見つめた。
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