第53話



 白雪は布団の中に身を沈ませながらぼんやりと天井の板を見つめながら考えていた。



(私は、本当に柚葉のことを思って手放したのかな……?)



 柚葉の言葉が、頭の中で何度も木霊している。否定され、拒絶され、罵られる。確かにそれらは全て白雪に向いたものだが、そばで聞いていて気持ちの良いものでもない。


 たとえそれらが自分に向けられたものではないとわかっていたとしても、何度も何度も聞いていれば、苦しくもなるだろう。自分に向いていないとわかっていても、途中で、これはもしかしたら自分に言われているのかもしれないと思ってしまっても仕方がないことだ。


 それを、相手が悪いと言い切れない自分が弱いのか、それとも、それに耐えられなかった柚葉が弱いのか。


 それすらも、わからない。


 布団の中でため息をつく。考えてもどうしようもないとわかっていても、考えてしまうのは、きっとただの愚か者なのだろう。


 目を瞑ってみるけれど、なかなか眠ることができない。


 無意味に体を左右に揺らし、自分なりに眠気を誘ってみるけれど、あまり効果はない。白雪は諦めて体を起こす。


 そうして、夜が更けていくのだーー。





 ここ数日、なかなか寝付けなかった白雪は、頭がふわふわとした日々を過ごしているのを自覚していた。かと言って外を歩くことが出来るわけではなく、部屋の中でじっと座っているだけが基本なので、何かに支障をきたすわけではないのは救いと言えることだろう。


 この狭い世界の中で待っていれば、萩乃が何でもしてくれるのだ。


 こうしてじっとしていれば、誰にも迷惑をかけることもない。それに、落ち着いついている自分を自覚して。どれほど己のことしか考えいないのかと笑いがこみ上げてくる。



「姫様?」


「……萩乃?」


「はい。入りますよ」


「……うん」



 頷くと、すっと襖が開いて萩乃が入ってくる。


 そして、萩乃と視線を合わせて何となく微笑んでいると、すっと萩乃の目が細まるのを見て、白雪は体をびくっと少しだけ震えさせた。



「……姫様、最近眠れていないでしょう」


「……何で?」


「目の下。隈ができていますよ」


「!」


「お昼寝でもしましょう。体力の低下は病の元になってしまいますから」



 萩乃の言葉に、白雪はそれでも頷くことができなくて。



「眠りたくないの。眠ろうとしても、できない。だから平気よ」



 白雪の“眠りたくない”という言葉を聞いて萩乃は眉をしかめる。けれど、それは一瞬のことだったため、白雪にも気付かれていない。


 萩乃は白雪を見つめ、やはり寝かせなければと思う。


 無言で立ち上がり、白雪の布団を引っ張り出して用意し、白雪のそばに戻って侍る。

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