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第50話

「……では、柚葉は姫様の後を追ったはいいけれど、“あちら”に残ったと?」


「まぁ…そうなる、のかな……」


「そうですか。なら、もうあの子はいないと思いこれからのことを考えましょう。食事なども全てわたしがしますので少し遅れてしまったりしてしまいますが、大丈夫ですか?」


「そんな……、萩乃も私の側にいてはダメよ。姉様……緋雪様に言えば、あなたならきっと……」


「わたしが白雪様のおそばを離れると思いますか。何を言われても、わたしは離れませんよ」


「萩乃、でも……」


「でももだけどもありません。わたしは姫様のお側におりますから」



 強い決意のこもった声でそう言われて、白雪はそれ以上何も言えなくなる。


 それでも、“鬼姫”と言われている白雪のそばにいると言うことは、これからもずっと非難されると言うことなのだ。そんなことになんの関係もない萩乃にまで背負わせたくなくて、白雪は言葉を重ねる。



「萩乃、私は萩乃に傷ついて欲しくないの」


「何故わたしが傷つくのですか?」


「だって、私の側に居るということは、それだけ悪意にさらされるということなのよ」


「一番の悪意に晒されているのは姫様でしょう。気にしませんし、わたし」


「萩乃、あの、でも……!」


「言いたいのなら言わせておけばいいんですよ。……姫様の苦しさも知らないくせに、バチが当たればいいんです」


「は、萩乃……」



 いつになく辛辣なことをいう萩乃に、白雪が戸惑いながら声をかければ、萩乃はいつものようににこり、と笑ってくれる。ただその瞳が笑っていないだけで。



「姫様、いいですか? 言いたい奴には言わせておけばいいのいです。誰、とは言いませんが、悲劇の少女ぶるのもいい加減にして欲しいですしね?」



 萩乃のその言葉に、白雪は本当に何も言えなくなってしまった。



(もしかして萩乃……相当怒っている……?)



 本当なら疑いようもないほどに怒っているのだが、その怒りの矛先が柚葉だろうと言うこともあり、白雪が戸惑ってしまう。こんなふうになって欲しいわけではなかったのに、どうしてうまくいかないのだろうかと、少し悔しくなる。


 自己嫌悪に陥りかけていた白雪を、両手を白雪の目の前で叩いて現実に引き戻した萩乃が言った。



「離れたのはあの子の方です。本当に姫様がそこまで気負う必要はどこにもありません」


「萩乃……でも」


「わたしは、お側に居ることを許してもらえて嬉しいんですよ?」



 萩乃の言葉に、白雪が目を見開いた。

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