第48話
皇は、白雪のその冷徹さにむしろ驚きを隠せないでいた。
柚葉は白雪のためを思って発言したはずなのに、白雪はそれを完全に無視する。そして、それを言った柚葉の先を完全に決めつけ、遠ざけようとしているのだ。
さすがに、それには皇が声を上げた。
「白雪、待て。柚葉はお前のことを思って言ったのだろう? それをそんなふうに言うのは……」
「かわいそう? 本当に? 本当にそう思いますか?」
「……白雪?」
「言ったはずです。私は、私に向けられた誠意に対し、私が傾けられるだけのその誠意に応えていると」
突然の白雪の言葉に皇が戸惑う。
「私が柚葉に返すことができる誠意がこれです。私は柚葉に誠意を返したい。そう思っているから“外す”と言っているのです」
「な……、待て。柚葉に返す誠意が今までお前を支えてきた人間を遠ざけることだと言うのか?」
「その通りです。これが、私が柚葉に返せる誠意ですから」
意味がわからない。そうとしか言えない。柚葉は涙を流しているし、大和は白雪を見つめる瞳を険しくしている。皇も、自然と瞳に鋭さが増していくのを自覚する。
それでも、目の前の彼女は態度を変えないのだ。
「ーーそうか」
そう言って、皇は白雪から視線を外し、柚葉に向けて言った。
「柚葉、ここに残るか?」
「え……、あ…」
「お前が望むのなら“許可”する。どうする?」
皇の言葉に柚葉は戸惑う。ちらと白雪を見た。
白雪は変わらない凪いだ瞳で柚葉を見つめている。
その瞬間に柚葉は思い知った。もう、白雪には“柚葉”という己が必要ないのはないのだろうかと。そうでなければ、あんなことは言われるはずがない。あんな簡単に手放したりしないはずなのだ。
なんだか、全てがどうでも良くなる。
もう必要ないと思われている。そばにいなくてもいいと思われている。
ならばーー。
「……あたしは、……残りたいです、皇様」
側にいても必要とされないのなら。側にいてもいらないと言われるのなら。
離れよう。
「……わかった。お前も、文句はないなーー白雪」
一応の確認として声をかける。けれど、白雪から帰ってくる言葉は肯定の言葉。
「勿論です。柚葉がそれを望み、願っているのですから」
そう言った白雪に対し、皇は、大和は、白雪を見る目が変わる。まるで悪者になったような心地を感じながらも、白雪はそれを甘んじて受けいれ、受け止める。
皇は無言で異界と現世の“扉”を開ける。視線だけで白雪に進むように促し、白雪も当たり前のように歩を進める。
目の前にある不思議なところへ足を進めれば戻れる。白雪は少しだけ考えてから柚葉を見る。紅の瞳でしばらく見つめ、そしてぽつりと言葉を残した。
「……今まで、ごめんなさい。ありがとう、
「ーーッ!?」
柚葉に何か言われる前に、皇や大和に何かを言われる前に。白雪はその姿を消した。
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