第46話
「オレたち“鬼”が、お前に迷惑をかけた」
「……それは、大丈夫ですよ。気にしておりませんから」
「だが、一歩間違えれば殺されていたかもしれないんだ」
「それは、私の運命がそこまでだったということでしょう」
白雪の言葉を聞いて、皇は思わず足を止めて白雪を見た。その表情には隠しようもないほどの驚愕が浮かんでいる。
「……そ、れ、本気で、言っているのか?」
皇の言葉に、白雪は平然と返答した。
「ええ。もちろんです」
普通に返されたその言葉に、皇は何も言えなくなる。それは、少し離れたところにいる大和も同じようで、その紅の瞳を見開いていた。
唯一、白雪のその言葉や態度に慣れている柚葉だけが目を瞑り、そっと顔を背けた。
信じららないものを見るような二対の瞳に、白雪はそれでも動じることなく、同じように二対の瞳を見つめ返している。
「お前は、どうして……」
「諦めているからです。私は、私という存在が……これ以上ない程に、――」
「それでも……!」
思わず、皇は白雪に詰め寄ってしまう。
それでも、白雪は引かないのだ。
「知っていますよ。私を、私以上に気にかけ、大切にしてくれている人がいると。私のできないことを、私の代わりにしてくれている人がいるのだと」
「ならば、お前はそれに応えるべきだろう!?」
「応えておりますよ」
「どこがだッ!?」
「私は、私の持ちうる限りの誠意で、応えております。たとえあなたにそんな風に見えないのだとしても。私は、これ以上はできないのです」
「なん……ッ」
「何故なら、あなたが見ているものが、私が相手に傾けられる全ての誠意ですから」
言葉を失う、とはきっとこのことを言うのだろう。皇は自分と同じ紅の瞳の少女をただ見つめることしかできなくて、少女も同じように見つめているだけだった。
「白雪……お前は……」
「姫様、これ以上はやめてください」
皇の言葉に重なるように、柚葉が声を発する。その声は、とても苦しそうで辛そうだ。けれど、それでも、白雪は小さく微笑んでいるのだ。目の前のその現実に、頭が、感情が、置いてけぼりにされる。
「もう、やめて下さい」
柚葉のその懇願は、彼女の主人である白雪に向けられたのか、もしくはそんな白雪を責めるようなことを言っていた皇に向けられて言われたのか。
――わからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます