第45話
こうして腕の中に閉じ込めて仕舞えば、安心するという気持ちは、危ないと自分でも自覚しているけれど、それはそれで仕方がないと皇は己を納得させた。
そんな皇の独占欲をみて、ダーランはため息をつき言葉を発する。
「今回は白雪だったから良かったが、白雪でなかったら殺していたぞ」
ダーランの物騒な言葉に、白雪が目を見開いた。
それを認めたダーランは悪気なく言い放った。
「当たり前のことだ。その昔、お前たち“人”は、“オレたち”を迫害し、追い詰め、殺していったんだ。それは当たり前の報復だろう?」
ダーランの言葉に、白雪は言葉を失った。昔のことと言っても、その傷は消えるわけではないのだと改めて突きつけられた気がしたのだ。
忘れてはいけない。忘れようとしてもいけない。
それは、人が背負わなければならない業なのだ。
「言っただろう、白雪」
ダーランが、皇の腕の中にいる少女に呼びかける。
「オレは、お前からの拒絶や差別などの感情がなかったから受け入れたんだ。もし、そういったものを感じたらその喉を噛み切るとも」
いっそ清々しいほどの言葉に、白雪もどう反応すれば良いのかわからなくて、ダーランを見つめてしまった。
そんな白雪を見ながら、ダーランは思っていた。
(まぁ、おそらく“朱音”はそれを願っていたのだろうがな)
あえて言っていないが、それはおそらく皇も思っていたのだろう。表情が険しくなる。
「……とにかく、これでお前はお前のいた場所に戻れるんだ。よかったな、白雪」
そう言って、ダーランはふと周りを見る。先ほどまであんなにもたくさんいた小動物が、大人と言われる動物たちが、今は一切いない。
今この場に悪意が満ちているからだ。
それが誰からの悪意なのかはわからない。けれど――。
(やはり、白雪以外の“人”は、ここでは受け入れられなさそうだな)
ダーランは、そう考えていた。
*
ダーランに軽く挨拶をし、遠巻きに見ていた仔たちにも手を振ってそこを後にした白雪たちは、現在普通に歩いて移動していた。
“鬼の道”も存在しているのだが、白雪がここを歩きたいと言ったため、しばらくは歩くこととなったのだ。木々に囲まれたその場所を、皇に手を引かれながら白雪はテクテクと歩を進める。
少し離れたところでは、柚葉と大和が同じ様にして歩いていた。
「……あの、皇様」
「すまなかった…白雪」
「え?」
突然の謝罪に、白雪の戸惑った声が返っていく。
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