第43話

ダーランのその言葉に、白雪は目を見開いた。


 そんな白雪の様子を見つめながら、ダーランは近づけていた体を離し、そしてなにもない空間をじっと見つめ始めた。


 白雪は内心で首を傾げながらも、ダーランに声をかけようとした時。




「――白雪ッ!」




 自分の名を呼ぶその声に反応して、体を動かそうとしたけれど、それよりも前に目の前から体を包まれる感覚に襲われて、驚きで体が硬直する。



「白雪……無事でよかった……本当に」


「!? ……? ……ッ!!」


「怪我とかはしていないか? もしあるんだったら見せてくれ」


「え、あの、え、え……皇、様…?」



 頭がだいぶ混乱している。けれど白雪のそんな混乱に皇は気づくことができず、白雪をぎゅうきゅうと抱きしめている。


 そんな風に異性とも人とも触れあいの経験のない白雪はどうすればいいのかと必死に考えるけれど、いい案が浮かぶはずもなく、無意味に手がおろおろとしている。


 そんな白雪を助け出したのは――。



「姫様ッ!!」


「いたっ、うわッ!?」


「姫様、大丈夫ですか!? 汚されてませんッ!?」


「ちょ、流石にそれは酷い……」


「黙りなさい! あなた、なんでこの男の好きなようにさせてるのよ!?」


「なんでって……、だって頭領は――……むぐっ!?」


「大和、お前なに言いそうになってるの、ん? うん?」


「むぐぐぐぐーッ!!」


「そっちはそっちでじゃれあっていて! 姫様、お湯を借りましょう。お身体を清めましょう?」


「柚葉ッ!? 流石に傷つくぞッ!?」


「うるさいです! なんで姫様の周りには遠慮のない殿方ばかりが集まるのですかね。一度お祓いにでも行こうかしら……」


「柚葉ッ!?」



 一気に騒がしくなった室内で、ダーランはふぅとため息をつく。そしてそっと白雪を見る。……まだ現状の理解が追いついていないらしい。


 柚葉が白雪を背中で守るようにしているのを見てから、ダーランはそっと白雪に近づき声をかけた。



「……白雪、大丈夫か?」


「…………………………はっ!?」


「大丈夫ではなさそうだな……」


「……なにが起こってましたか?」


「現実逃避よくないぞ…白雪」



 気持ちはわかるが、と内心で呟きながら、ダーランはいまだに騒いでいる方へと視線を向ける。


 ぽつりと呟いた。



「スメラギ、変わったな」


「え?」


「いや、なんでもない。今は鬼の頭領だったもんな、あいつ……」



 白雪の側でそう呟いてから、ダーランはすっと皇たちの方へと歩んでいく。

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