第42話

――“楽しい”。“面白い”。


 今まで必死に抑えていたものが、溢れて止まらない。


 だから、分からなかった。気づかなかった――気づきたくなかった。



 あの裏切りに。





 しばらくの間、小動物の仔たちと遊び遊ばれをして白雪は再びダーランに連れられて広い部屋まで案内された。


 気づけばダーランと向かい合わせで座っている。


 ダーランの青灰色の瞳に見つめられつつ、白雪は同じようにその紅の瞳でじっと見つめ返していた。


 先に口を開いたのはダーランだった。



「白雪」


「はい」


「お前、自分の特別な能力のことで、まだ話していないことがあるんじゃないか?」


「……」



 正直、驚いた。そのことに関して何かを突っ込まれるとは思っていなかったからだ。白雪はゆっくりと息を吐き、口を開いた。



「どうして、そう思われるのですか」



 白雪の問いかけに、ダーランはすぐに言葉を返す。



「言っていただろう。“鬼姫ほどの特別な力ではない”と。それはつまり、お前自身もそうだが、他人から見てもその“欠点”は致命的なのではないか?」


「……ダーラン様はすごいですね」


「お前も、あまり隠す気は無かっただろう?」


「そんな事はありませんよ。実際、皇様たちにも同じ説明をしました」


「……スメラギたちは何か?」


「いえ。気づいていて見ないふりをしてくださっているのか、そもそも私の言葉を信用していないのか、もしくは本当に気づいていないのか。私にはわかりませんよ」



 そう言った白雪はとても悲しそうな表情をしていると気付いていないのは、本人なのか、周りなのか。


 分からないけれど、ダーランはとりあえず皇がこの少女を本当の意味で見てくれることを願うしかできない。


 けれど、保険をつけようと思った。



「白雪」


「はい」


「名を呼べ」


「……え?」



 ダーランの突然の言葉に、首をかしげる白雪を見つめながら、ダーランは体をぐっと白雪に近づけた。それに驚いて体をそらす。



「もし、」


「え?」


「もし、お前が本当に辛くて、苦しくて、このままでは己を保つことができないと。このままでは己が壊れてしまうと。自分で自覚した時、オレを呼べ」


「……」


「お前を必ず助ける。お前が伸ばす手を必ず掴む。離さない。だから……、」



 言葉を切ったダーランに見つめられながら、白雪はそれでも凪いだ瞳で相手をじっと見つめている。その様子を見ながら、ダーランは言葉を紡ぎ、繋いだ。



「――……だから、オレを信じろ、白雪」

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