第41話

『人の世は、生きにくい?』



 突然の質問に、白雪は反応ができない。けれど、漠然とそう感じていたのかもしれない。


 人の世が生きにくいというのは正直あまり考えたことはなかった。生きていく上で、辛いことも苦しいこともあるのを知っているから、なおさらだ。


 だから、生き辛いのかと聞かれても正直にわからないが、やっぱり正解な気がするなとぼんやり考えていると、体が突然前に倒れた。



「…….……え」



 小さく声を出すことしかできなくて、白雪はそのままどたんっ、と倒れて動かなくなる。



『大丈夫ッ!?』


『お、お前たち! 突然何をやっているんだッ!?』



 慌てた声が聞こえてくる。けれど、それがなんだかとてもおかしくて。


 痛いということを自覚すると、白雪は自分も“人”なのだと認識できる。



「白雪、大丈夫か?」


「……」



 ダーランが気遣わしげに声をかけてくれる。けれど、それに返事をすることもせずに、そのままただうつ伏せになっている白雪に困惑しているのがわかる。


 ぽつりと、白雪が言葉を零した。



「……いたい……」


「白雪?」



 不思議そうなダーランの声が聞こえる。周りが驚いている気配も感じる。


 白雪はもう一度言った。



「……いたい……、私は、痛みを感じることが、できるのですね」


「!」


『……!!』



 周りの驚きを気にする余裕が白雪にはすでになかった。“痛み”が、体からの訴えを脳が理解して口から溢れる。


 今まで“治療”した人の痛みは引き受けてきたけれど、事自分のこととなると、そんなものは分からなかった。


 他の痛みを感じながら自分の痛みまで感じていると壊れてしまうかもしれないと、無自覚ながらも感じていたのかもしれない。


 白雪はむくっ、と体を起こす。と、背中から楽しそうな悲鳴が聞こえてくる。


 ころころと小さく転がっている仔どもの動物たちを見て、白雪は心の底から楽しそうに、そして、いたずらを思いついた子供のような笑みを乗せた。



「いたずらばかりしている仔は、いっぱいいっぱい撫でてあげるんだから!」



 そう言って、白雪が動物たちに手を伸ばしてめちゃくちゃに撫で回す。



『キャ〜ッ、白雪が意地悪する〜!』


『わ〜ッ、毛がぐちゃぐちゃになる〜ッ!』


「ふふっ。みんな気持ちいい」



 もふもふ、ふわふわ、さらさら。その毛皮を堪能しながら動物とじゃれ合うその姿は、白雪を知る人間が見れば異常に見えるだろう。それほどまでに白雪ははしゃいでいた。まるで子供のように。白雪の様子につられて、仔どもたちはより一層白雪にかまっていく。小動物たちとわちゃわちゃとしていると、心がほっとする。当たり前の感情が湧いてくる。

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