第39話



 ダーラン達の住処について、白雪は改めて周りを見渡す。


 そこには、ここに来る道中でも見た、大小様々な動物達がお互いにじゃれあっていたり、仔どもたちが走り回っていたり、大人たちが談笑したり――“人”がいる場所と変わらない風景がそこには広がっていた。



『ついたな。白雪、お前たちも一度降りてくれ』



 ダーランの言葉にハッとして、白雪は衣を気にしながらダーランの背中から降りる。降りると同時に周りを動物に囲まれてしまい、白雪はその場に座り込んで手を伸ばして動物たちを撫でていた。


 しばらくそうしていた白雪だったが、そういえばと思い出し、ダーランを探す。ここまで乗せてくれたお礼を言わなければと思い、辺りを見回して、そして、ある一点で視線が固定され、体が固まった。


 陽の光に反射する美しい銀の髪。交わった視線の先には青灰色の瞳。


 紅の瞳を見開いて、じっと見つめてしまう。自分と同じように見つめている相手が身を動かす。それにびくりと反応してしまった。


 白雪のその反応に、相手もぴくりと反応してその場に留まった。しばらく無言が続く。どう話しかければいいのかわからなくて、意味もなく視線をうろうろとさせていると、突然相手の人に名を呼ばれた。



「……白雪」


「え……?」



 どうして名を知っているのだろうか。その疑問が出ていたのだろう、相手の人が少し息をついて言葉を続けた。



「俺だ。ダーラン」


「…………え?」



 ぽかん、と相手を見つめてしまったのは仕方がない。と白雪は自分に言い聞かせる。


 なにしろ、白雪は相手を全くと言っていいほど知らないのだ。驚くなという方が無理だ。それに、今ダーランと名乗った。あの大きな狼と同じ名前だなと現実逃避していると、相手の人が髪をがしがしと乱してそのまま近づいてきた。


 その様子を呆然と見つめていると、ダーランと名乗った人は白雪のすぐ目の前まで来て、視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。



「白雪」


「……あの……」


「驚かせて悪いな。お前と同じ人の形をとった方がいいかと思ったが、逆に警戒するとは」


「……ダーランさん……?」


「呼び捨てでいいと言っただろう」


「……あの、ダーラン様……」


「なぜ様付けに進化するんだ…。白雪、ダーランだ」


「いえ、その……」



 おどおどとしながら、白雪は体を後ろにそらす。



「ん?」



 しかし、白雪が体をそらせば、できた距離を埋めるようにダーランが近づく。


 異性に近づかれるということに慣れていない白雪が頬を染めて、相手を直視しないように視線をそらす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る