第38話

と、狐がぴょんと跳んで、柚葉が驚きながら慌てて狐を受け止めた。



『あなたは、とても優しい人なのですね』



 狐が腕の中でそう言ってくれたけれど、柚葉はそれに応えることができなかった。


 代わりに、腕の中にいる狐を両腕で抱き直して、その毛皮を堪能することに集中する。


 それを受けながら、狐は口で道案内をしたのだった。





 視界に広がったのは広大な草原。色とりどりの花が咲き、目を楽しませてくれる。


 白雪はダーランの背中に乗りながら辺りをきょろきょろと見回した。


 “異界”に来た時から思っていたが、ここは白雪たちが住んでいる現世と変わらない。太陽や光があり、草が生え、花が咲き、木々が立つ中で、お互いに助け合いながら生きているのだろう。小動物たちが、自分よりもはるかに大きな動物にじゃれついている。


 それを普通に受け入れている動物たちを見て、それがここでは普通のことなのだと理解する。


 白雪はふとダーランを見た。白雪の負担にならないよう、ゆっくりとした歩みで進んでいるのだろう。申し訳なくなって、白雪はダーランに声をかけた。



「あの……、ダーラン……さん」


『呼び捨てろ。何だ』


「私、もう自分で歩きますよ?」


『急にどうした?』


「だって……すごく迷惑をかけているから……、これ以上は……」


『……』



 白雪の言葉にダーランら黙ってしまった。


 黙ってしまったダーランに、白雪は戸惑いを隠せなくて、その背でおろおろとしている。その気配を感じながら、ダーランは自分に合わせてぽてぽてとついてきている小動物たちをみた。それに気づいた彼らのうち、白雪に話しかけていた栗鼠と兎がこくりと頷いて、ぴょんっ、と跳躍してダーランの背に着地する。



『白雪〜』


「わっ!!」


『抱っこー、抱っこして〜』


「あ、ま、待って……ちょっと、待っ……!」



 言っている途中で「わぷっ」と言いながら顔に向かって跳躍してきた栗鼠を、文字通り顔で受け止める。


 楽しそうに声を上げて笑っている栗鼠と兎を宥めつつ、白雪はそのままその二匹の相手することとなった。



『白雪、撫でて〜』


『ボクも〜』



 二匹の相手をしていると周りの動物たちからも声が上がり始めてしまい、白雪は戸惑いを大きくする。どうすればいいのかわからなくて、無意識にダーランの毛をぎゅっと握っていた。


 もちろん、それに気づいたダーランは自分たちの住処に着いたら目一杯して貰えばいいと言い、少しだけ速度を速めた。



「……私は、ここにいても、いいのかな……?」



 背中でポツリと呟いた白雪の言葉を、ダーランは黙殺した。

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