第37話

『ダーラン様からの伝言です。早くこちらに来い、と』


「人間か?」


『みたいです。なんか、すごく綺麗な響きの名前でしたよ!』


「すぐに行く」


『はーい! 案内しますね』



 狐との話をつけ、皇は大和と柚葉を見る。二人ともこくりと頷いて、皇の方へと寄り、そして狐を見る。



『じゃ、行きましょう!』



 そう言って、ぴょんと跳ねるように進む。皇は狐の後を追うように二人に告げ、一度後ろを振り返る。



 朱音と目が合い、お互いに睨むように視線を絡ませる。



「後で、後悔しますわよ?」


「お前の方こそな」



 そう言って、皇もその場から離れた。


 残った朱音は、ぐっと薔薇そうびの扇を折れてしまいそうになるほど強く握り締める。



「どうしてあなたは、いつもあたくしの話を聞かないのかしらね……!」



 その呟きを聞いたものは、誰もいない。





 狐の後に続いていると、いつの間にか全く見知らぬ場所に出ていて、柚葉は驚いた。目を何度も瞬かせて状況を理解しようと必死にするが、結局、分からない。不安になって側にいる大和にすがるような視線を送れば、それに気づいた大和が、少し驚いたような表情をした後、頬を少し染めてぷい、と視線を外してしまう。


 大和のその態度に困惑と、少ない衝撃を受けながら、柚葉はしゅんとうなだれて、もうこの人を頼らない、と心で思いつつてくてくと歩いた。


 皇は大和を見て苦笑し、柚葉に声をかけた。



「不思議か?」


「皇様……。はい、あの……」


「俺たちは、“狐の道”を通っているんだ」


「“狐の道”?」



 なんのことかと首をかしげると、前を歩いてきた狐が止まって、振り返る。



『そう、ボク達の道ですよ!』



 えっへん、と胸を張っている様子がたまらなく可愛い。



『まあ、普通にボク達が鬼のいるところへ行くときに使う道です。ものすごく単純に言うならば、空中散歩をしているみたいな感じです』


「え、空中散歩!?」



 狐の言葉に、柚葉が驚きの声を上げる。狐がじっと休ま派を見つめた。



『……あなたも、“人”ですか?』


「え?」


『あまりにも驚くので。鬼も獣人も。このくらいのことならば知っているし、彼らもふつうにそれを使いますから』


「……そう。私は人間よ。その……ごめんなさい」


『? どうして謝るのですか?』


「なんとなく……かな……」


『不思議な人ですね。あなたも、あの人も』



 狐がくすりと笑ったような気がして、柚葉はほんの少し驚いてから当たり前のことかと納得する。人のように喜怒哀楽があっても何も不思議ではない。それに、今柚葉の目の前にいるのは、人の言葉を解し、人と同じように会話ができる、“言葉を解する動物”。人と同じ感情を持っていてもおかしくはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る