第37話
『ダーラン様からの伝言です。早くこちらに来い、と』
「人間か?」
『みたいです。なんか、すごく綺麗な響きの名前でしたよ!』
「すぐに行く」
『はーい! 案内しますね』
狐との話をつけ、皇は大和と柚葉を見る。二人ともこくりと頷いて、皇の方へと寄り、そして狐を見る。
『じゃ、行きましょう!』
そう言って、ぴょんと跳ねるように進む。皇は狐の後を追うように二人に告げ、一度後ろを振り返る。
朱音と目が合い、お互いに睨むように視線を絡ませる。
「後で、後悔しますわよ?」
「お前の方こそな」
そう言って、皇もその場から離れた。
残った朱音は、ぐっと
「どうしてあなたは、いつもあたくしの話を聞かないのかしらね……!」
その呟きを聞いたものは、誰もいない。
*
狐の後に続いていると、いつの間にか全く見知らぬ場所に出ていて、柚葉は驚いた。目を何度も瞬かせて状況を理解しようと必死にするが、結局、分からない。不安になって側にいる大和にすがるような視線を送れば、それに気づいた大和が、少し驚いたような表情をした後、頬を少し染めてぷい、と視線を外してしまう。
大和のその態度に困惑と、少ない衝撃を受けながら、柚葉はしゅんとうなだれて、もうこの人を頼らない、と心で思いつつてくてくと歩いた。
皇は大和を見て苦笑し、柚葉に声をかけた。
「不思議か?」
「皇様……。はい、あの……」
「俺たちは、“狐の道”を通っているんだ」
「“狐の道”?」
なんのことかと首をかしげると、前を歩いてきた狐が止まって、振り返る。
『そう、ボク達の道ですよ!』
えっへん、と胸を張っている様子がたまらなく可愛い。
『まあ、普通にボク達が鬼のいるところへ行くときに使う道です。ものすごく単純に言うならば、空中散歩をしているみたいな感じです』
「え、空中散歩!?」
狐の言葉に、柚葉が驚きの声を上げる。狐がじっと休ま派を見つめた。
『……あなたも、“人”ですか?』
「え?」
『あまりにも驚くので。鬼も獣人も。このくらいのことならば知っているし、彼らもふつうにそれを使いますから』
「……そう。私は人間よ。その……ごめんなさい」
『? どうして謝るのですか?』
「なんとなく……かな……」
『不思議な人ですね。あなたも、あの人も』
狐がくすりと笑ったような気がして、柚葉はほんの少し驚いてから当たり前のことかと納得する。人のように喜怒哀楽があっても何も不思議ではない。それに、今柚葉の目の前にいるのは、人の言葉を解し、人と同じように会話ができる、“言葉を解する動物”。人と同じ感情を持っていてもおかしくはない。
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