第35話

と、今まで周りにいて大人しくしていた兎や栗鼠が白雪の膝の上にちょこんと乗っかってきた。それにはさすがに驚いて、真紅の瞳を見開いたまま、膝の上にある小さな動物たちを見つめる。



『シラユキ……白雪?』


『名前……』



 突然呼ばれて、驚いたが、先程ダーランと話していた時に軽く自分の名前を告げたこと思い出し、白雪は少しだけ戸惑いながら答えた。



「えっと、白い雪で、シラユキ、というの。似合わないでしょう?」


『なんで?』


『そんなことないのに』


「そう……なのかしら……。私は、人の世では、存在そのものが許されていないも同然だったから。……分からないわ」


『人間は、まだそんなことをしているの?』


『白雪、かわいそう』


「かわいそう……。そうなのかな……それも、分からないわ」



 遠くを見つめながらそんなことを言った白雪に、栗鼠も兎も、それを聞いていた周りの動物たちも、ダーランも。白雪が人の中でどれほどの感情を落としてきたのかを目の当たりにして何も言えなくなる。



『……取り敢えず、俺たちの住処に行こう。白雪、オレの背に乗れ』


「え?」


『人の足は遅すぎるからな』



 ぷい、とそっぽを向くダーラン笑見つめて白雪は暫く考え、そして頷いた。



「ありがとうございます。ダーランさん」


『……呼び捨てろ。ムズムズする!』


『ダーラン、照れてる!』


『珍しい、照れてるよー!』


『お前たち、うるさい! ほら、早く乗れ!!』



 動物たちのじゃれ合いに笑みを浮かべながら、白雪はダーランの背中に乗せてもらった。


 ちなみに、ダーランは“大狼ダーラン”。普通の狼よりもふた周りほど大きいため、白雪を乗せてもなんら問題なく自然の中を駆け抜け、彼らの住処へと案内してもらったのだった。





 “異界”に着いてすぐ、皇は大和と柚葉を連れて朱音のところへと足を運んだ。



「あら、皇。あたくしに会いにきてくれたの?」



 妖艶な笑みをその顔に乗せ、まるで誘うように皇を熱を含んだ瞳で見つめる朱音に、皇は思い切り嫌悪を表し、柚葉も思わず眉を顰めてしまう。


 すり寄ってきそうな朱音を視線で押しとどめて皇は朱音に言った。



「彼女を返せ」


「なんのこと?」


「言っている言葉の意味がわからないととぼけるつもりか?」


「しょうがないわ。だって、本当にわからないんだもの」



 くすくすと笑いながら朱音は皇だけを見つめる。ぞっとしたとものを感じて、柚葉が後ろに下がれば、大和が柚葉を守るように肩に手を添えてその体を支える。

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