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第33話
目の前のよくわからない穴が完全に閉じきってしまう前に、叫ぶように許可すると言った皇の声を聞いた気がした。そして、はっと意識を回復させて、白雪は少し戸惑った。
(……ここ、どこなんだろう……?)
見回しても周りには木々と草ばかりで何も目印になるようなものは何も無い。
手をついて白雪は立ち上がり、もう一度見回す。しかし、やはり何もなければ場所もわからない。
「……皇様の声に反応して、暴れてしまったから、そのせいなのかしら……」
うーん、と首を傾げて白雪は考え込む。しかし分からない。そもそも、白雪はあの左京院の屋敷の外に出たことがないのだから、ここがどこかわからないのは当たり前ではある。
「……迷子になった時は、その場を動くなと言われてたわね……」
もちろん、それもあるが、それはあくまで同行者が直前まで一緒にいれば、の話である。しかし、どこかに誰かと出かけるということをしたことのない白雪に、そんなことがわかるはずもなく、白雪は“動くな”という言葉を忠実に守ることを決めてしまった。
「たぶん、ここは“異界”よね。変に動き回ると危ない気もするし、やっぱり大人しくしていた方がいいわよね。うん」
一人こくこくと頷いて納得をしている白雪を、ひょこりと覗き見るモノがいた。
ふとその視線に気づいた白雪がくるりと辺りを見回す。しかし分からない。
「あれ? 何かの視線を感じた気がしたんだけどなぁ……」
こてん、と首を傾げて白雪は視線を落とした。自分のいた場所でも、白雪は外に出ることがかなわない状況にいた為、こうして草花に囲まれる今の状況はとても心が躍る。
手を伸ばせば、指先に草の感触を感じることができて、もう少し手を伸ばせば花の感触や香りも感じ取れる。
それをもっと感じたくて、白雪は思い切ってその場に体を横たえた。
草の香りが、花の香りが、白雪を包み込む。
初めてのそれに、白雪は目を瞑って、目一杯堪能する。
と、草を踏むような音がして、ふと目を開ける。音はまだ続いていて、白雪の方へと向かってきているようだった。
白雪は、目を開けたままじっとして、自分は に近づいてくるものを待つ。
そして――。
「……あら、こんにちは?」
ひょこりと覗き込んできたのは様々な動物たちだった。
『に、人間……?』
「はい。私は人間ですよ?」
小さな存在――栗鼠が口を開く。
『な、なんでここにいるの?』
「なぜでしょう……。突然こちらに招かれてしまったので、私は理由を申し上げられないのです」
続いて口を開いたのは兎。
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