第23話

先ほどの朱音は、正直に、ほぼ全てが真逆といってもいいほどだった。化粧も濃い。衣もすごく派手で気位が高く、傲慢。凄く我儘姫という感じだった。



「……頭領、意外と好みにうるさいですもんね」


「大和、うるさい」



 しょうがないだろう、と皇がこぼした。



「元来、鬼は派手好きなのは知っているから別に否定するわけではないが、自分の隣に立たれることを考えると、嫌なんだよ」



 はー、と大きくため息をついて、皇はごろんとその場に寝転がった。



「たいした“力”もないくせに、媚び売ってこられても困るっての……」



 ぼそっと辛辣なことを呟き、寝転がったまま深呼吸して、体をすぐに起こした。



「……ところで、大和」


「はい?」


「お前、人の世に行ったんだよな?」


「だから、そう報告したじゃないですかっ! ……興味本位であったのは謝りますけど」


「おお、それは後でたっぷりと説教をくれてやる」


「ひぃっ!!」



 大和の怯えをそのまま無視し、皇はじっと大和を見る。皇の視線に居心地悪そうに顔をしかめる大和。しばらく、そんな無言の空間が続き、ふと皇が言葉を出した。



「お前、どうして傷を負っていない?」


「……は?」


「まさか、人の攻撃全て避けてきたのか? すごいな」


「え、ちょっと、頭領。それ、本気で言ってます!?」


「ん? ああ、もちろん」



 皇の返答に大和は唖然とし、そして体を震えさせた。


 どうした、と声をかけようとしたが、すぐに大和が皇に飛びかかってきて、その疑問を口にすることはできなかった。もちろん、皇はそれを華麗に避けた。



「頭領のバカーッ!!」


「うわッ!? 大和、危ないだろ!?」


「人の話を全く聞いてないッ! それとも信じてないッ!? いや、どっちにしろ酷すぎるッ!!」


「聞いてた! 聞いてたから落ち着け!!」


「頭領の聞いてたはもう信用しないッ!! だからもう一度言う!! 人の世に、僕たち鬼と同じ紅い瞳を持ち、かつての“鬼姫”と同じ“力”を持った子がいるんです!!」


「大和、落ち着けって!!」


「頭領が理解してくれるまで暴れてやるーッ!!」


「大和ッ!!」


「ッ!?」



 あまりの迫力のある声に、大和は体を強張らせて黙った。それにため息をついて、皇が静かに話を進める。



「別にお前の言葉を聞いていないわけではないし、信じていないわけではない。……ただ、確認したかっただけだ」



 皇は大和を見つめる。大和も皇を見つめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る