第19話

成る程。確かにその場所ならば、白雪の行動も、相手の行動も見える。


 この指示をあの場でした萩乃がすごい、と感心しつつ、白雪の口から出たのは柚葉に対する謝罪だった。



「ごめんなさい。大人しくしているわ。だから許して」



 そう言って、白雪は浮かしていた腰を即座に下ろしたのだった。


 白雪のその行動に一応は満足したのか、柚葉がにこりと笑ってくれた。


 ……少しだけ寒気がしたのは気のせいだ。きっと気のせいに違いない。


 自分で自分に言い聞かせながら、白雪は大人しくその場に触ったまま、相手が声をかけてくるのを待つ。


 しかし、いくら待っても相手は何も言わない。困惑で思わず柚葉を見るけれど、彼女は相手を睨みつけることで忙しいらしく、珍しく白雪の視線に気づいてくれない。



(……どうしろと言うのよ……)



 内心で少し悪態をついた時、ようやく相手が絵を発した。



「顔を見て話をしたい、と先に申し出たはずだが?」



 それは、白雪に言った言葉ではなく、柚葉に向けた言葉だった。



「そうですね。ですが、お断り申し上げたはずです」


「……つくづく、お前たちの姫を見せたくな良いようだな?」


「もちろん、たとえあなたが一度、姫様の素顔を見ていて、姫様の容姿に耐性があるとわかっていても、今は公式の場。そんなわがままに聞く耳を持つはずがあるわけないでしょう」


「成る程?」



 二人の会話を聞きながら、白雪は一人混乱していた。



(……え、一度私の素顔を見ている? この紅い瞳も? どこで……)



 基本的に外を出歩くことのない白雪の姿を見るのは稀だ。しかも、外を歩くにしても、彼女は顔を上げないようにと徹底している。


 そのため、白雪の紅い瞳を見ることなど、もっと稀なことである。


 思い当たるのは、“鬼”がでたと騒ぎになった時に、わざわざこの部屋を調べたいといってきたあの二人の青年。


 あの時は隠すことなくそのままで外に出たため、この容姿を見られているのは確実だろう。けれど――。



(声が……違うような気がする……。それに、私もこの声を聞いたことが…ある、ような……?)



 うーん、と首をひねって考えていると。



「あっ、待ちなさいッ!!」


「……え?」



 考えることに夢中になりすぎていて気づかなかった。


 柚葉が立ち上がり、手を伸ばしている姿を見たと思ったら、目の前にあったはずな衝立が、ぱたん。と倒れていくのが見えた。


 ぽかん、としている白雪の前に、一人の青年が現れる。

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