第18話

「――ッ! 姫様ッ!!」



 反論しようとする萩乃を扇子越しに見つめて白雪は言った。



「お客様よ。萩乃」



 その一言を言われて仕舞えば、萩乃は何も言えなくなる。


 主人たる白雪が相手を“客”として認め、暗にもてなしなさい、と言っているのだ。反論など出来るはずもない。


 優秀な二人は、主人を立てることをきちんと理解し、それに従うこともできる。


 緋雪の周りにいるただ噂が好きな、いい加減な彼女らとは違うのだ。だからこそ、この二人が白雪付きになったのだが。



「……ッ、かしこまりました」


「ええ、お願いね」



 白雪の言葉に頷きを返せば、白雪も間髪入れずに言葉を返してきた。



「柚葉、あなたは姫様のそばにいなさい。必ずよ」


「ええ、もちろん」


「では、私はもてなすための準備を、仕方がないからしてくるわ。御簾を下ろして、ちゃんと顔を隠して――あー……無かったわね…。衝立はあるから、それを仕切りに使って」


「わかったわ」


「柚葉は、姫様と、このお相手が見える位置にいること。いいわね」



 一通り、柚葉に指示を出してから萩乃はお茶とお茶請けを取りにその場から離れ、柚葉は一度白雪を無理やり部屋に押し込んでから、萩乃に言われた通りに衝立を部屋の端から引っ張って白雪が座る場所と相手が座る場所のちょうど中間に思い切りたてる。


 二人の行動力に驚いていると、柚葉が白雪の手を取り誘導してくれる。


 大人しくそれに従って腰を落ち着けると、柚葉がそばを離れて未だ部屋の外に放置していた相手をようやく迎え入れた。


 かたん、と音がしてはっとしつつ、白雪も顔を出さなければと思い、立ち上がろうとすると、それを見越していたのか、柚葉が咎めるように呼びかけてくる。



「姫様」


「……」


「もし、今、このお相手に自らの意思で顔を見せたのなら、萩乃の変態っぷりを思い切りぶつけますよ」


「……え」


「そうですね……。食事中の距離をもっと詰めさせましょう。以前のように。今はちゃんと距離を取らせていますが、それを解除しましょう」


「え、それはちょっと……」


「そうだ。以前、姫様の寝顔を姿絵に収めたいとも言っていたので、それも実行させましょう。夜、お部屋に勝手に入りますが、ご勘弁くださいね」


「ちょ……、あの……!」


「まだまだありますが、どうします? もう止めませんからお好きな方をお選びください」



 そう言って、柚葉は相手の案内が終わったのか、衝立と垂直になるような位置に腰を下ろす。

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