第17話



「……え、私に?」



 柚葉の困惑気味の言葉を聞いて、白雪も驚いた。思わず聞き返してしまうくらいには動揺してしまったらしい。ぽかんとしている白雪を見つめて、柚葉も軽く困惑しながらコクリと頷いた。



「は、はい。“左京院のニノ姫を”と言われたのだと……」


「でも、私は公には認められていないはずなのだけれど……」


「それはおかしな話だと思いますが。……ですが、面会を求められているのは間違いなく姫様です」


「……そう。父は? 何か言っていたのかしら?」


「いえ……、むしろ、このことを伝えて来いと」


「……そう。なら、会うわ」



 柚葉の言葉を聞き、白雪は父が今回の相手と白雪に接点を持たせたいのだと気づき、頷いた。


 どうせ今回断ったとしても、この面会希望は白雪が頷くまで続くだろう。それならば最初から頷いたほうが後々の面倒にはならないはずだ。


 そう思って頷いたのだが。



「ですが、姫様は病み上がりです。あまり無理をされるのは……」



 そう。白雪が倒れてからすでに五日目になっていた。白雪はこの五日間、ずっと高熱かうなされ、今朝方ようやく熱も下がり、今日はようやくこうして床離して、ゆっくりと座って過ごしていたのだ。


 柚葉が渋るのも無理はない。


 その心遣いに感謝しながら、白雪は答える。



「でもね、ここで断っても無意味なのよ」


「?」


「だって、もう部屋のすぐ外にいらっしゃると思うから」


「えっ!?」



 白雪の言葉に、柚葉が反応し、外につながる襖を見る。


 白雪は苦笑しながら言った。



「ありがとう、柚葉。私の体のことを心配してくれて。けれど、すでにここまで来てしまった人を追い返すのも忍びないわ」


「無礼です。礼儀知らずにもほどがあります!」


「まぁ……それに関しては否定できないけれど……。それよりも、ほら。迎える準備をしてくれる?」


「いえ、追い返すべきですよ!?」


「今は外で萩乃が止めてくれてるのだと思うけれど、萩乃が追い返せないということは、左京院の名を使っても無理だったのよ。彼女、使えるものはなんでも使って相手を追い返すもの」



 苦笑しながらそう言って、白雪は立ち上がる。白雪の行動を止めようと柚葉も動いたけれど、白雪の行動は早く、既にその手には扇子が握られており、外に出る準備がしっかりと整えられている。


 ぐぅ、と喉の奥で呻きながら、柚葉ひ渋々白雪に従い、外にいるであろう人物を恨むことにしたのだった。



「萩乃」


「姫様…ッ!? いけません。許しません、ダメです。寝ていてください」


「……萩乃……」



 あまりの連発に、白雪の方が少し笑ってしまう。そして、中から思い切り襖を開けた。

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