第15話

苦しそうな呼吸を繰り返している子供の手を取り、白雪はその子に言い聞かせるように囁いた。



「もう大丈夫よ。苦しくなくなるわ」



 聞こえていないと分かっていてもそう声をかけ、見えていないと分かっていても、その顔に優しい笑みを浮かべる。


 その一瞬後に、白雪は自身の体に起こった変化に歯をくいしばる。頭が痛みを訴えてきて、体の熱が急上昇する。喉に違和感を覚えながら、白雪は子供からその手を離し、距離をとった。


 子供を見れば、呼吸は穏やかになっているし、頬の赤みも平常になっている。


 それに安心しながら、白雪はふらふらの体を引きずって入口の襖の方まで後退する。


 足が絡まり、倒れてしまいそうになるけれど、白雪は自分の体を支えるだけの力は残っておらず、そのまま床に倒れようとしたのだけれど、それは誰かの手によって阻止される。小さくお礼を言ってから、相手を見ることなくその体を離して、もう二・三歩下がった。


 ふと父を見れば白雪を同じように見つめながら満足そうに笑っている。


 人でなし、と心の中で悪態をつき、白雪はなにも言わずらその部屋から出て行った。


 部屋の外には緋雪と、柚葉と萩乃が心配そうに立っており、白雪が出てきたことに反応して、そして三人ともに目を見開いた。


 何かを言おうとしている三人に向かって、白雪は首を左右に振る。



「――ッ!!」



 しかし、その行動で頭の痛みが増し、苦しくなる。



「……姫様、歩けますか?」



 萩乃は瞬時に白雪の状況を理解して、白雪の負担にならないように、ゆっくりと静かに声をかける。


 白雪がゆっくりと顔をあげて萩乃を見、小さく笑った。



「……もう、あなたの、顔が……ぼやけてる、わ」



 息継ぎを何度もしながらそう訴えてくれた白雪に、萩乃は安堵し、そして白雪に手を伸ばした。



「では、わたしが、運びますね。姫様」


「迷惑、は……」


「とんでもない。存分に甘えてください。白雪様」


「萩乃……、はぎ……の、ご、めん、ね……」



 そう言って、白雪はふっとその体から力を抜いて意識を飛ばしてしまった。



「姫様ッ!」



 柚葉の悲鳴が響いたけれど、それはそばにいた萩乃のおかげで転倒は免れ、ぐったりと体を萩乃にもたれ掛けさせている。



「大丈夫よ。多分、中でこの“治療”をされてきたのよ。……安静にしていれば大丈夫よ」


「白雪様……」


「眠っているわ。……緋雪様、このままわたし達二人で、姫様を運んでもよろしいですか?」



 萩乃は緋雪を見つめながらそう言葉をかける。緋雪もそれに頷きを返した。

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