第14話
「ああ、こちらに入るのは“鬼姫”だけです。他の方はご遠慮を」
「白雪は“鬼姫”などではない! 無礼者!!」
緋雪が声を上げ相手を咎めるけれど、どこ吹く風で笑いながらその言葉を受け流す。
その態度に、もう一度声を上げようとする緋雪に、白雪が緋雪の袖の衣を掴んで止めた。
「白雪ッ!」
「いいの。間違っていないのだから」
「いいえ、間違っているわ。何もかも間違ってる!」
「私は大丈夫です。慣れていますし」
「慣れていいものでもないわ! 白雪、お願い……もっと自分を大切にしてちょうだい。お願いよ、白雪……ッ!」
昨夜、柚葉に言われたことと同じことを言われ、白雪は苦笑をこぼす。その様子に緋雪は首をかしげる。白雪は、“鬼姫”と言われる所以であるその紅い瞳で緋雪を見つめながら言った。
「――私は、これ以上ないほど、私を大事にしておりますよ」
そう言って、白雪は緋雪の袖の衣から手を離し、一人部屋の中へと入室した。
「白雪ッ!!」
緋雪の声が聞こえたけれど、それはすぐに閉められた襖に遮られた。
薄暗い部屋の中にいたのは一人の壮年の男性。そして、その男性に付き従っている青年。
白雪はゆっくりと歩を進めて彼らに近づいていく。そして、彼らと己の間に違う存在を認め、足を止めた。
「来たか。妖に魅入られし“我が娘”よ」
「……」
「簡潔に言おう。今、そこに横たわっている子供を治せ」
「……この子は?」
「我が家に“どんな怪我も病気も治すことのできる者がいる”と言う噂を聞いて助けを求めてきた親から預かった子供だ」
口の端を持ち上げて笑いをこぼす自身の“父親”を見つめ、白雪が口を開く。
「私は、“治す”ことはできません」
「だろうな。しかし、
「……」
元々、探すつもりもないくせにと口の中で呟きながら、白雪は目の前の父を睨みつける。しかし、この父は白雪を恐れることをしない。まっすぐにその視線を受け止め、そして、静かに見返すのだ。
感情的になっても、白雪が負けるだけだ。
落ち着くようにと意識して、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
「安心しろ。不治の病ではないことは分かっている」
すっと視線を子供に向けて父はそう言う。
白雪はため息をつき、諦めたように足を進めた。
横になっている子供のすぐそばで膝をつき、その手で額や首に触れる。汗をかいていて、呼吸も荒い。時折咳を繰り返している。
(……たぶん、風邪をこじらせたのね)
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