第12話

 “異形”と言われる者達の中でも、唯一、人と共存していた存在。


 知も、武も、彼らはもち、武に関しては人よりも優れていた。


 だからなのか、彼らは人とは違うはずなのに、人に受け入れられていた。


 その彼らが、人を裏切ったのだ。


 いまだに言葉を大事にしていた動物達も、獣人も喜んだ。これで人に復讐ができると。しかし、声をあげた一族――“鬼族”の頭は言った。



「力は貸す。しかし、人への復讐をするのなら、我らは一切手は出さない。やりたければ好きにすればいい」



 と。そう言ったのだ。何故と“異形”達が怒りに声をあげた。


 せっかく人に復讐ができるのに。同じ痛みを与えることができるのに。


 それを放棄しろというのか、と。



「だから言っただろう。やりたければ勝手にやればいいと。ただし、手はかさないと。人に挑みたいのなら挑めばいい。止めはしない。代わりに手も出さない」



 あんた達一族が一緒にやってくれなければ意味がない。負けてしまうだけだと。



「ではもし、人に勝った時。お前は達はどうする?」



 どうする、とは。と、困惑が広がっていく。



「彼ら人のように、嘲り、侮り、他を愚弄して、見下し、その一族全てを殺すまで追い続けるつもりか?」



 その言葉に誰もが詰まる。そこまでは考えていない。ただ、自分たちが受けた痛みや、悲しさを分からせたいだけだ。そう呟く声があちらこちらからぽつぽつと出てくる。


 しかし、鬼の頭はそれを一刀両断した。



「――人は、それをするぞ」



 息を飲む音が響き渡る。



「彼ら人は報復をする。例えそれが女子供でも容赦などしないだろう。人は、同じ人同士でも騙し合い、相手を貶めることを簡単にする生き物だ」



 ならば――ならば、どうしなければならないのか。どう頑張っても、もうこの平地に、人から隠れて住める場所などどこにもないただ、自分たちは狩られる日を指折り数えて、怯えて暮らすしかないのか。


 そう、彼ら“異形”が嘆いた時。



「――“異界”を、開こう」



 そう声が響いた。



「“異界”であれば、我ら鬼族が招き入れた者以外は絶対に入ってくることはできない。この世のどこよりも安全な場所だ」



 本当に? 安全なのか?



「“異界”とは、元来我ら“鬼”の生まれた場所。そして“我”は鬼の頭。――許可する。“異形”と言われるお前達を、受け入れる」


 瞬間に、その場が喜びに湧いた。


 これでようやく、恐怖を抱きながら寝る夜を過ごさなくてもいい。


 これでようやく、己の家族が殺されていく様を見なくてもいい。


 ようやく平穏に過ごすことができると。


 彼らは喜びに泣き、喜びに叫び、鬼に感謝をした。


 だからこそ、彼らは気づくことができなかった。



 ――その鬼の頭が、今にも泣きそうな表情で、遠くを見つめているということに。

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