第9話
*
外に出れば、二人の男が驚愕に目を見開いて自分を見上げた。
震える体をひた隠し、顔を上げて、その忌まれている瞳で男たちを睨むように見つめ、言った。
「――去りなさい」
静かな声は、たったその一言だけを紡ぐ。
白雪のその紅い瞳に見られているというだけで、恐怖を感じた男たちは身を震わせ、無意識のうちに後退していく。
しかし、そのうちの一人がはっとしたように体を止め、白雪を睨み返した。
「部屋に上がる許可をください」
「お、おいっ!!」
焦ったように連れの男が止めようとしたけれど、彼の意思は固いらしい。
珍しいこともあるのね、と思いながら白雪は問い返した。
「何故?」
「“あちら”から異形が来ました。捕まえようとしましたが逃げられてしまい、ただいま捜索中です」
「異形とは?」
「“鬼”ですよ。ですから――」
「――なら、あなたの目の前にいるじゃない」
「は?」
白雪の言葉に、男が理解できないというような声を出す。
じっと白雪を見つめていると、驚くほどに美しい笑みを向けられた。
「私は、この左京院の“鬼姫”と呼ばれているのよ。ほら、いるでしょう? あなたの、すぐ目の前に」
息を飲む音がする。少し腕を上げれば、扇のように袖が広がった。
「この左京院に禍をもたらすとされているのが私よ。この紅い瞳は“鬼”である証。さあ、捕まえなさい」
まるで歌うようにそういう白雪に、男二人はどうすればいいのかわからなくなる。
両者の間にジリジリとした緊張感が流れていたが、それを壊す人物が現れた。
「姫様ッ!!」
「外に出ないでくださいと申したはずですわ!!」
「柚葉、萩乃。おかえりなさい」
見知った二人が来たことに気持ちが緩み、白雪は自分でも気づかないうちに、自然と笑みがこぼれた。
「よかった……。怪我などはしていないわね?」
「わたし達よりも姫様です!! は、早く……ッ!!」
「大丈夫よ。大したことないわ」
白雪は笑いながらそう言ったが、二人は未だ立ち尽くしている男二人を睨みつけた。
「いつまで姫様の素顔を見ているつもりです!? 立ち去りなさい!!」
柚葉の叱責にはっとしたように、男達は慌てて顔を背けその場から立ち去ろうと足を動かした。
柚葉はすぐに白雪の元へと駆け寄り、その背中を押して部屋の中へと押し込めていく。それに少し困ったような白雪の声を聞いて、先程白雪に対して発言した男が足を止め、振り向いた。
男のその瞳に映る少女は、本当にただの少女である。
(……何故、怖がる必要があったのだろうか……?)
その疑問を持って、男は白雪と女房二人が部屋の中へと消えていくのを見届けたのだった。
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