第8話

ふ、と白雪がまぶたをあげたのと同時ぐらいに、相手は自身の体の変化を感じ取った。


 先ほどまで、全身が痛みを訴えかけてきていたのに、今はそれがすっかりなくなっている。ばっと相手が白雪を見れば、そこにはうっすらと笑みを浮かべた少女がいた。



「この、力……!?」


「他言無用で、お願いします」


「だが、お前のこの力! お前のその瞳は――ッ!!」


「生まれた時からの業でございます。私は人間で、あなた様“鬼”とは違うのです」


「だが……ッ!!」


「早く、お逃げください。あなた様を待っていらっしゃる方がいるのでしょう? あまり心配をかけてはいけませんわ」



 そう言って、白雪は相手から体を離す。視線を外に向けて早く逃げるようにと促す。


 と、部屋の外に人の気配が現れた。



「――おい、ここに逃げ込んだんじゃないか?」


「待て、ここはあの妖がいるところだぞ!?」


「化け物同士でかばい合っているのかもしれないだろう」



 外から聞こえてくる会話に、部屋の中にある人物からの視線を感じる。


 白雪は、ゆっくりと息を吐き出した。



「……そういうことです。ここからは無理そうですから、あちらの奥から逃げてください。その間のつなぎは、私がやります」


「お前も、一緒に逃げれば――ッ」


「どこへ?」


「!?」



 間を置くことなく白雪が言葉を返してきて、相手が言葉に詰まる。白雪が、自嘲しながら言葉を吐き出した。



「私に、逃げ場などありません」



 そう言って、白雪は立ち上がり、松明の灯りがある方へと歩いていく。


 このままその体を引き寄せて、無理にでも抱き込み、あの人間たちの猛攻を避けながら突破できればいいが、それは無理だろう。白雪との体格差はさほど変わらず、そして、自分は先ほどまで怪我を負っていた。傷口や痛みは消えているけれど、もしそれらが再び己の体に現れれば、彼女を守ることも、己を守ることもできない。


 それに、なによりもその行動をしようとも、白雪の背中の拒絶が強すぎて行動と判断が遅くなってしまった。抱えて逃げたとしても暴れられれば自分では押さえつけることができない。


 気づけば、白雪は襖を開け、外に出てしまっていた。


 舌打ちをして白雪に指示された通りに外にでる。


 あの少女を連れていけないのはとてももどかしいけれど、今は自分が助からなければ。そして、伝えなければ。




 ――我ら“鬼”と同じ、紅い瞳を持つ人間の少女が存在しているのだと。自分たちの頂点に立つ、あの方に。

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