第6話

「……ねぇ、萩乃はぎの、それはむしろ嫌がらせ――」


「何を言うの、柚葉! このとってもとっても可愛らしい姫様が、もぐもぐなさるのよ!? あの可愛らしいお口をもぐもぐ動かすの! これは見ないわけにはいかないでしょう!?」


「ねぇ、あなたがそう言う変態じみたことを言うから食事時にはいつも追い出されるって、いつになったら自覚してくれるの!?」


「変態っ!? 大変だわ、すぐにこの世から消さなければっ!!」


「もういっそあなたが消えなさいよっ!!」



 二人の言い合いに何かを言うこともできず、白雪は無言で、そしてとてもいたたまれない気持ちで座っていた。


 タレ目の女性――萩乃はとても有能なのだが。発言に問題がありすぎて、ここにきたと柚葉に聞いたことがある。


 どうやってなだめようかと考えていると、ずいっと萩乃が顔を寄せてきた。



「ッ、な、なに?」


「さ、どうぞお食べください!」



 眩しいほどの笑みでそんなことを言われ、白雪はとても困った。



「……こ、この距離で……?」


「はい!!」



 顔と顔がくっつきそうなほど近い。この距離では、流石に誰もそんな行動を起こすのは遠慮するだろう。もちろん、白雪とて同じである。



「も、もう少し、離れてくれないかしら……?」


「え、これでも離れているのですが……」


「これで……?」


「はい。これで」



 そうなのか、と納得はできないけれど、それならば自分が我慢するべきだろうと思い、白雪は素直にそれに従って、柚葉が持ってきてくれたお茶菓子に手を伸ばそうとした瞬間。


 スパンッと思い切り何かを叩く音がして、驚いて体を揺らす。先ほどまで目の前にあった萩乃の顔がなくなり、その後ろに位置するところには柚葉が立っている。



「姫様に変なことを吹き込むのはやめなさいよ。それに、どう考えても適切な距離ではないでしょう」



 怒りを抑えるように、静かな声で柚葉がそう言った。



「ゆ、柚葉……、手加減を……」


「すると思っているの?」


「……思いません……」


「では、さっさと姫様から離れなさい。この変態」


「すみませんでした……」


「…………」



 あれ、この二人って、萩乃のほうが年上だったと思うのだけれど……、と思いつつ、これで二人ともが上手にやっているのならば、まぁいいかと考え、二人のやりとりを見守っていたその時――。



「鬼だ!! 鬼が“こちら”にきたっ!!」



 その言葉に、叫び声に、白雪は過剰とも言えるほどに体を跳ね上げ反応し、それまで言い合っていた柚葉と萩乃も言い合いをやめ、即座に二人で白雪を守るように体を動かす。

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