第5話
それだけでも、この二人は満足してしまう、
「……私、やっぱり、姉様に謝罪を……で、でも……私なんかが急に伺ったら迷惑よね……」
でも……、やっぱり……、と煮え切らない言葉をぶつぶつと呟きながら、白雪の足はそれでもしっかりと彼女の自室に向かっている。ある意味、感嘆してしまうところである。
部屋についてからも室内をずっとうろうろと歩きまわっている。
「姫様……」
「気になるのであれば、一緒に行きましょう?」
二人の女房がそう声をかけてくれるも、頷くことはできなくて。
今にも泣きそうになりながら、首を左右に振って否を伝える。
「私が突然伺ってしまったら、姉様まで何か言われてしまうかもしれないもの……。…………行かないわ」
「緋雪様はあまりにも気にしないと思いますけれど……」
「それは姉様が気にしないだけで、周りは違うわ。迷惑はかけたくないの」
まあ確かに、周りはうるさくなるけれど、本来ならばその周りすらも黙らせることができる身分なのですが、とは流石に言わなかった。
「二人とも、ごめんね。私なんかのお付きにさせられて……」
しゅん、と項垂れる白雪に二人が声を上げる。
「何度も申し上げましたが、わたし達は自らで望んだのです」
「そうですよ。ですから、謝らないでくださいませ」
そういう二人に一度視線を向け、泣き笑いのような笑みを見せてから、白雪はいつも自分が座っている場所まで歩いて、座った。
白雪のその表情を見た二人は、悔しさに胸が潰れそうになる程の痛みを感じる。
何度同じことを伝えても、白雪はその言葉を信じてくれない。叫びたくなるのを何とか押しとどめて、ツリ目気味の女性の方が、ここに来るまで、その両手に持っていたものを白雪に差し出した。
「――お茶と、お茶菓子を食べませんか? せっかく姫様のために持ってきたものですし」
「……そう、だったわね。ありがとう。
そう言って白雪は、ツリ目気味の女性――柚葉にお礼を言う。
それに対して嬉しそうにそのきつい目元を優しく和らげて、柚葉は応えた。
柚葉が手に持っている盆の上には、一人分のお茶とお茶菓子が乗っている。それを目の前に差し出されて、白雪は少しだけ眉を下げた。
「……二人の分は?」
「姫様……、流石に、この家で勝手なことをしているとは言っても、そこまでのことはできません」
「そうですよ。それに、わたし達は姫様が食べているのをしっかりと見つめさせていただきます!」
そう勢いよく断言した友人を、柚葉はため息をつきながら見つめた。
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